瞑想のやり方は、姿勢や呼吸の作法よりも、実践量と期待値の置き方で決まります。座り方は椅子でかまいませんし、目を閉じるかどうかも本質ではありません。実際の研究を読むと、瞑想の経験がない人が1日13分を8週間続けたときに注意や気分の指標が動いた一方、同じ実践でも4週間の時点では対照群との差が出ていません1。効果の大きさも、何もしない群と比べるか、別の何かをする群と比べるかで、まったく違う顔を見せます23。この記事では、最初の10分の進め方という具体から、種類の選び分け、期待していい効果の範囲、合わなかったときの引き際までを、査読論文をもとに組み立てます。朝の習慣として組み込む方法は朝のマインドフルネスの記事、作業の合間に挟む使い方はポモドーロと短時間瞑想の記事で個別に扱っています。
瞑想は「無になる」練習ではない
瞑想を始めた人がいちばん早く挫折するのは、雑念が浮かぶこと自体を失敗だと感じたときです。この誤解は、瞑想の中身を取り違えていることから来ています。
瞑想の神経科学をまとめた総説で、Yi-Yuan Tang、Britta Hölzel、Michael Posnerの3氏は、マインドフルネス瞑想の働きを、注意を制御する働き、感情の反応を調整する働き、自分自身を眺める視点の変化という要素に分けて整理しています4。いずれも、思考を消すことではなく、思考との距離の取り方に関わる機能です。
実際の10分間で起きているのは、呼吸に注意を置き、しばらくすると考えごとへ逸れ、逸れたことに気づき、また呼吸へ戻す、という往復です。この往復の回数が練習量になります。
そう捉えると、「今日は雑念だらけだった」という日は、練習量が多かった日だと言い換えられるでしょう。集中が続いた日より、戻す回数が多かった日のほうが、鍛えている部分にはよほど負荷がかかっている。
瞑想とマインドフルネスの違い
この2語は混ざって使われがちですが、指している範囲が違います。瞑想は、注意の向け方を訓練する実践全体を指す広い言葉で、宗教的な文脈から呼吸法まで幅があります。マインドフルネスは、そのうち「今この瞬間に、評価を加えずに注意を向ける」という態度を指す概念で、それを体系的な訓練プログラムに落としたものがマインドフルネスストレス低減法(MBSR)です。
MBSRは、マサチューセッツ大学医学部のJon Kabat-Zinn氏が、慢性疼痛の患者を対象にした外来プログラムとして1982年に報告したものが原型になっています5。この記事で扱う研究の多くは、MBSRやそれを応用した8週間のプログラム、あるいはそれに準じた日々の実践を検証したものです。
したがって、後で見る効果量の数字は、「瞑想一般」ではなく「マインドフルネスを軸にした構造化されたプログラム」について確かめられた範囲だと理解しておくと、過大に受け取らずに済みます。
姿勢と場所は、椅子でかまわない
床にあぐらをかく必要はありません。研究で用いられるプログラムでも、参加者が実際に取り組みやすい形が優先されます。決めるべき要素は多くなく、次の4点をいちど決めておけば毎回の判断がなくなります。
| 決めること | 現実的な選択 | 押さえたい理由 |
|---|---|---|
| 姿勢 | 椅子に浅く座り、背もたれから背中を離す | 体を支える最低限の緊張が残ると、眠りに落ちにくい |
| 手と足 | 足裏を床につけ、手は太ももの上に置く | 位置を固定すると、姿勢を直す動作に注意が向かなくなる |
| 目 | 閉じる、または1メートル先の床をぼんやり見る | 眠気が強い日は開けたほうが続く |
| 場所と時間 | 毎日同じ場所、既存の習慣の直後 | 実践するかどうかの判断をなくすと、量が安定する |
背筋を伸ばすという指示は、力むという意味ではありません。頭のてっぺんが軽く上に引かれているくらいの感覚で、肩の力は抜けている状態が続けやすい姿勢です。
最初の10分をどう進めるか
初回は10分に設定します。長さを競う必要はなく、途中でやめない長さから始めるほうが定着します。
- タイマーを10分に設定し、通知は切っておく。時計を見る動作が入ると、そのたびに注意が切れます
- 座った姿勢のまま、3回だけ深めに息を吐く。ここは呼吸を意識的に操作してよい区間です
- あとは呼吸を自然に任せ、鼻を通る空気の感覚か、お腹の動きのどちらか一方に注意を置く
- 考えごとが浮かんだら、内容を追わずに「考えていた」とだけ認めて、注意を呼吸へ戻す
- 終了音が鳴ったら、すぐ立たずに10秒ほど部屋の音や体の感覚に注意を広げてから動き出す
呼吸を数える方法もよく使われます。吐くたびに1から10まで数え、10まで来たら1に戻る。途中で数がわからなくなったら1へ戻す。数えるという作業があるぶん、注意の置き場所がはっきりして、初期は取り組みやすくなります。
呼吸そのものを操作する方法は、瞑想とは別の技法として整理したほうが混乱がありません。1分間に5回から6回程度の遅い呼吸や、息を長く吐く手法は、自律神経の指標に直接働きかけるアプローチで、呼吸法と心拍変動の記事で扱っています。短時間で緊張を落としたい場面には、生理的ため息のほうが目的に合います。
何分を、どれくらい続けるか
実践量の目安は、研究で使われた設計から逆算できます。ここが、瞑想の記事でいちばん曖昧に書かれがちな部分です。
瞑想の経験がない18歳から45歳の人を、1日13分の誘導瞑想を行う群と、同じ13分だけポッドキャストを聴く群に無作為に割り付けた試験があります。8週間の時点では、瞑想を行った群で注意、作業記憶、再認記憶、気分の指標が改善し、ストレス課題を与えたときの不安の得点も低下しました。ところが4週間の時点では、対照群との明確な差は検出されていません1。
一方で、より短い訓練で変化を報告した研究もあります。瞑想の経験がない参加者に、4日間にわたって計4回の訓練セッションを行った試験では、視空間処理、作業記憶、実行機能の指標が改善し、疲労感と不安が下がったと報告されました6。短い訓練でも初期の変化は捉えられる一方、日々の実践として積み上げるには数週間かかると読むのが妥当なところです。
現実的な設計としては、1日10分から15分を、まず8週間続けてみる。2週間で何も感じなくても、それは想定内だと最初に決めておく。この期待値の置き方が、続くかどうかを大きく左右します。
効果はどこまで期待できるか
瞑想の効果を語るときに落とし穴になるのが、比較対象です。何もしない人と比べるのか、同じ時間だけ別のことをした人と比べるのかで、数字はかなり変わります。
臨床集団を対象に、プラセボ効果を打ち消せる能動的な対照群を置いた試験だけを集めたメタ解析では、47件の試験、3,515人分のデータから、マインドフルネス瞑想プログラムについて不安(8週時点の効果量0.38)、抑うつ(同0.30)、痛み(同0.33)で中程度の確からしさの改善が示されました。同時に、注意、睡眠、気分の positive な側面、食習慣、体重については、効果がないか、判断できるだけの根拠がないと結論されています。そして、薬物療法や運動、他の行動療法と比べて瞑想プログラムのほうが優れているという根拠は見つかりませんでした2。
臨床集団ではない一般の成人を対象にした大規模なメタ解析でも、似た構図が確認できます。136件の試験、11,605人分のデータで、何も介入しない群と比べると不安や抑うつ、心理的苦痛の指標が改善する一方、時間や注意を揃えただけの能動的な対照群と比べると、抑うつ以外では統計的に意味のある差が示されませんでした。さらに、運動や心理教育のように特定の効果を狙う介入と比べた場合には、瞑想プログラムが優れているという統計的な根拠は示されていません3。
| 見たい結果 | 研究の規模 | 何と比べたか | 観察された効果 |
|---|---|---|---|
| 不安・抑うつ・痛み2 | 47試験・3,515人 | 能動的な対照群 | 効果量0.22から0.38の小さめから中程度の改善 |
| 不安・抑うつ・苦痛3 | 136試験・11,605人 | 何もしない群 | 標準化平均差 -0.45 から -0.56 の改善 |
| 同上3 | 同上 | 時間を揃えただけの対照群 | 抑うつ以外は有意な差なし |
| 同上3 | 同上 | 効果を狙う他の介入 | 優れているという根拠は示されず |
| 認知機能7 | 45研究・2,238人 | 各種の対照群 | 全体でg=0.15、作業記憶0.23、実行機能0.15 |
| 睡眠の質8 | 18試験・1,654人 | 既存の睡眠治療 | 効果量0.03、実質的な差なし |
| 睡眠の質8 | 同上 | 時間を揃えた対照群 | 効果量0.33、追跡時0.54 |
この表から読み取れることは、はっきりしています。瞑想は、何もしないでいるより心理的な指標を押し上げる可能性が高い。しかし、同じ時間を運動や既存の治療に充てた場合と比べて明確に優れているとは言えず、効果の大きさも小さめから中程度にとどまる。とくに睡眠については、不眠に対する認知行動療法のような確立した治療の代わりにはなりません8。眠りの問題が主訴であれば、不眠の認知行動療法の記事のほうが優先度は高くなります。
瞑想の種類を目的で選ぶ
瞑想と呼ばれる実践は一つではありません。研究で扱われるものに限っても、注意の向け方が異なります。目的に合わせて選ぶほうが、続けやすさも変わります。
| 種類 | 注意の置き方 | 向いている場面 |
|---|---|---|
| 呼吸への集中 | 呼吸という一点に注意を戻し続ける | 初めての人、頭が散らかっている日 |
| ボディスキャン | 足先から頭へ、体の部位に順番に注意を移す | 体の緊張が抜けない夜、寝つきの悪い日 |
| 観察するタイプ | 一点に絞らず、浮かぶ音や思考をそのまま眺める | 呼吸への集中に慣れた後の発展形 |
| 慈悲の瞑想 | 自分や他者へ向けた短い言葉を心の中で繰り返す | 対人ストレスが続いているとき |
| 歩く瞑想 | 足裏の接地の感覚に注意を置きながら歩く | 座ると眠ってしまう人、日中の切り替え |
最初の1か月は呼吸への集中に絞ってかまいません。種類を増やすほど、その日にどれをやるかという判断が挟まり、続かない要因になります。夜に体の緊張が残るならボディスキャンを追加する、といった足し方が現実的です。
「脳が変わる」はどこまで確かか
瞑想の紹介記事でよく引かれるのが、脳の構造が変わるという話です。ここは、研究の流れを追うと慎重に扱うべき論点だとわかります。
出発点になったのは、8週間のプログラムに参加した16人と待機した17人を比べ、左の海馬などで灰白質の密度が増えたと報告した2011年の研究です9。この結果は広く引用されました。
ところが2022年、ウィスコンシン大学のRichard Davidson氏らのグループが、2件の無作為化比較試験を統合した218人分のデータで同じ現象を検証したところ、灰白質の体積、密度、皮質の厚みのいずれについても、8週間のプログラムによる変化を再現できませんでした10。論文は、先行研究には方法上の重要な限界があったと明記しています。
瞑想の効果を否定する結果ではありません。心理的な指標の改善はメタ解析で確認されています23。ただ、「8週間で脳が物理的に変わる」という説明は、現時点で最も規模が大きく統制の効いた検証では支持されていない。この温度感で受け取っておくのが正確です。
よくある説明を研究に照らす
瞑想の入門記事に並ぶ説明のうち、根拠の強さは一様ではありません。実際の研究に当てて整理します。
| よく見る説明 | 研究に照らすと |
|---|---|
| 続ければ集中力が上がる | 認知テストの改善は全体でg=0.15と小さく、作業記憶と実行機能に限られる。注意そのものの指標では明確な優越は示されていない7 |
| 睡眠の質が良くなる | 時間を揃えた対照群と比べれば改善するが、既存の睡眠治療と比べた差はほぼない8 |
| ストレスに強くなる | 不安や抑うつの指標は改善するが、効果の大きさは0.2から0.4程度2 |
| 8週間で脳が変わる | 218人規模の統合解析では構造の変化を再現できていない10 |
| 誰にでも安全な習慣 | 8週間のプログラムで、否定的な感情を伴う体験が58%、機能に影響が出た体験が37%と報告された研究がある11 |
| 無心になれば成功 | 注意が逸れて戻る往復が練習の中身で、無心は目標ではない4 |
期待値を下げる話に見えるかもしれませんが、実務としてはむしろ扱いやすくなるはずです。1日10分で人生が変わる、という前提で始めると、2週間後に変化がないこと自体が挫折の理由になってしまう。小さな効果を数か月かけて積むもの、と最初に置いておけば、意識は続ける設計のほうへ向きます。
合わない日、つらくなったとき
瞑想は万人に快適な体験とは限りません。この点は、入門記事ではほとんど触れられませんが、始める前に知っておくべき情報です。
8週間のマインドフルネス認知療法系のプログラムに参加した96人に対し、独立した面接者が44項目の構造化面接で確認した研究では、83%が意図しない体験を少なくとも一つ報告しました。この83%には、不快とは限らない変化も含まれます。そのうち否定的な感情を伴った体験は58%、日常生活の機能に影響が出た体験は37%、影響が続いた人は6%から14%でした。持続した影響は、過覚醒や解離といった、覚醒の調節が乱れた徴候と関連していました。研究者は、この頻度は他の心理療法と同程度だと結論しています11。
83件の研究、6,703人分をまとめた系統的レビューでも、有害事象の発生率は全体で8.3%と報告されています。試験環境では3.7%、観察研究では33.2%と幅が大きく、内容としては不安、抑うつ、認知面の異常が上位を占めました。精神的な問題の既往がない人にも起こりうると記されています12。
実践中に強い不安が湧く、涙が止まらない、現実感が薄れる、といった反応が出た場合は、そのまま続けないでください。目を開けて周囲を見回す、立ち上がって歩く、といった方法で注意を外へ戻します。反応が続くようであれば、自己判断せずに医療者へ相談してください。心身の不調で治療を受けている方は、始める前に主治医へ相談することをおすすめします。米国国立補完統合衛生センターも、瞑想は多くの人にとって安全とされる一方、精神的な健康上の問題を抱える人には注意が必要だと案内しています13。
アプリを使うか、自力でやるか
誘導音声を使うか、タイマーだけで座るか。どちらでも実践量は積めますが、初期はガイドがあるほうが迷いが減ります。
知覚ストレスが高い大学生88人を対象に、瞑想アプリを1日10分以上使うよう依頼された群と、待機した群を比較した無作為化比較試験があります。8週間後には、知覚ストレス、マインドフルネスの指標、自分への思いやりの得点が改善し、効果量は0.59から1.24の範囲でした。12週の追跡時点でも変化は維持されています14。
ただし、この種の試験の多くは待機群との比較です。前の章で見たとおり、何もしない群と比べた効果は大きめに出ます。アプリが特別に優れているという読み方はできません。使いやすさで選び、続かなければ無料の誘導音声に切り替える、という程度の位置づけが実態に合っています。
朝と夜、どちらで座るか
時間帯の優劣を直接比べた質の高い研究は多くありません。研究で採用されてきたのは、時間帯の指定ではなく、毎日決まったタイミングで実践する設計のほうです。判断材料になるのは、効果の差より続けやすさの差だと考えたほうが実務に合います。
朝は、その日の予定にまだ割り込まれていない時間帯という利点があります。起床直後は覚醒の度合いが低く、注意が逸れる回数は増えますが、練習としてはそれで問題ありません。朝の光を浴びる習慣と組み合わせる設計は朝のマインドフルネスの記事で扱っています。
夜は、体の緊張が抜けにくい日に向いています。ただし、寝る直前に布団の中で行うと途中で眠ってしまうことが多く、練習量としては積み上がりません。眠りに入る手段として使いたいのであれば、それは瞑想の練習とは別の目的だと切り分けておくほうが、どちらも中途半端になりません。睡眠そのものを立て直したい場合は睡眠の質を上げる記事のほうが射程に合います。
続けるための設計をつくる
8週間続けることが前提になる以上、意志ではなく設計の問題として扱います。
- 既存の習慣の直後に置く。朝のコーヒーを淹れた後、帰宅して着替えた後など、必ず起きる行動の後ろに固定する
- 長さを固定する。今日は気分がいいから20分、という運用は、翌日のハードルを上げるだけです
- できなかった日は記録だけ残す。連続記録が途切れたことを理由にやめてしまうのが、いちばん多い離脱の形です
- 変化は指標で見る。実感は当てになりません。睡眠時間、日中の眠気、会議後の消耗感など、数値か短いメモで残しておくと、8週間後に判断できます
スマートフォンを手に取る回数そのものが多い場合は、瞑想を足すより先に接触を減らすほうが効く場面もあります。この論点はデジタルデトックスの記事で扱っています。
会議前と、決断の前に使う
10分の実践を日課にできたら、場面を絞って使う方法も加えられます。研究が直接検証しているのは日々の実践のほうで、以下は日常への当てはめとして読んでください。
会議や商談の前の数分は、注意を切り替えるタイミングとして使いやすい場面です。直前まで別の案件を考えていた状態のまま席に着くと、最初の数分は前の話題が残ったままになりがちです。呼吸に注意を置く2分か3分を挟むと、切り替えの起点がはっきりします。
判断を急かされている場面でも、いったん座って呼吸へ注意を戻す時間は使えます。感情の反応を調整する働きは、瞑想の中核的な機能として整理されているものの一つです4。強い苛立ちや焦りが判断に混じっていると感じたときに、その状態を眺める数分を挟む。決断そのものが正しくなるわけではありませんが、反応で決めることは減らせます。
自律神経の乱れ全体を整えたい場合は、瞑想は選択肢の一つにすぎません。睡眠、運動、光の浴び方を含めた全体像は自律神経を整える記事、集中力そのものの土台については集中力を高める記事で扱っています。ストレスの対処法を時間軸で選びたいときはストレス発散方法の記事が対応します。
参考文献
Footnotes
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