朝の会議から夕方まで、椅子から立ったのは昼食とトイレだけ。夜になると腰が固まり、脚が重い。
そういう日が続くと、「座りすぎは体に悪い」という話が耳に入ってきます。30分に1回は立ちましょう、と。
ただ、その数字がどこから来たのかを書いている記事はあまりありません。1日何時間までなら大丈夫なのか、立てば帳消しになるのか、そこも曖昧なまま残ります。
この記事では、座位の研究が実際に何を測ってきたのかを整理します。
先に、結論だけ
- 座位のリスクは合計時間だけでは決まらない。1回あたりどれだけ続けて座ったかも独立して関連する
- 7,985人を加速度計で測った研究で、総座位時間が最も長い群のハザード比は2.63
- 「30分に1回」は実験で設定された間隔。その時刻を超えると急に危険になる、という境界ではない
- 分断の効果が測られているのは主に食後の血糖とインスリン。寿命そのものを直接測った実験ではない
- 運動量が多い群では座位時間との関連がほぼ消えるが、それは1日60〜75分の中強度という水準
日本の指針は、2023年に座位行動を入れた
厚生労働省の「健康づくりのための身体活動・運動ガイド2023」は、それまでの基準になかった「座位行動」という概念を入れました1。
定義はこうです。座位や臥位の状態で行われる、エネルギー消費が1.5メッツ以下のすべての覚醒中の行動。デスクワークや、座ったり寝ころんだ状態でテレビやスマートフォンを見ることが例に挙がっています。
成人への推奨事項の参考欄に、次の一文があります。
身体を動かす時間の長短にかかわらず、座りっぱなしの時間を減らす。特に余暇のスクリーンタイム(原文では脚注記号あり)を減らす。
「身体を動かす時間の長短にかかわらず」という前置きが入っています。運動しているかどうかとは別に、座りっぱなしの時間そのものを減らす、という書き方です。
高齢者向けの推奨にも「座りっぱなしの時間が長くなりすぎないように注意する」が入りました。
日本の公的指針が、座位を運動とは別の項目として扱うようになったのは、この2023年のガイドからです。
座位行動には、デスク以外も入る
定義に「座位や臥位の状態」とあるとおり、ここには寝ころんだ姿勢も含まれます。仕事のデスクだけの話ではありません。
通勤の座席、食事、ソファでの読書、ベッドでのスマートフォン。エネルギー消費が1.5メッツ以下で起きている時間は、すべて座位行動に入ります。
ガイドが「特に余暇のスクリーンタイムを減らす」と名指ししているのは、そこが減らしやすい領域だからでしょう。仕事中の座位は減らしにくくても、帰宅後の時間には手を入れる余地があります。
合計時間と、続けて座った時間は別の話
座位の研究は長いあいだ、自己申告による1日の合計時間を見てきました。「あなたは1日何時間座っていますか」と尋ねる方式です。
2017年に発表されたDiazらの研究は、そこを変えました2。45歳以上の成人7,985人に加速度計を腰に付けてもらい、座位時間を客観的に測っています。
この研究が測ったのは2つです。1日の総座位時間と、1回あたりの平均連続座位時間。
中央値4.0年の追跡で340人が亡くなりました。中強度から高強度の身体活動を調整したうえで、総座位時間が最も長い四分位のハザード比は2.63(95%CI 1.60〜4.30)でした。四分位の区切りは1日あたり約690分、747分、799分です。
そして、1回あたりの連続座位時間も独立して関連していました。 こちらの区切りは1回あたり7.7分、9.6分、12.4分です。
同じ8時間座っていても、30分ごとに切れているのと、4時間続けて座るのを2回やるのとでは、別の話になります。
論文の結論も「総量と、長く途切れずに溜まったぶんの両方が全死亡と関連する」という書き方をしています。
四分位という区切りの読み方
この研究の数字は四分位で示されています。参加者を座位時間の短い順に4等分し、最も短い群を基準にして、他の3群のハザード比を出す方式です。
区切りは1日あたり約690分、747分、799分。分に直すと分かりにくいので時間にすると、およそ11.5時間、12.4時間、13.3時間になります。
ここで注意したいのは、これが「起きているあいだの座位時間」ではなく、加速度計が座位と判定した時間の合計だという点です。デスクに向かっている時間だけでなく、通勤の座席、食事、テレビの前も含まれます。
自分の1日を思い返すと「そんなに座っていない」と感じるかもしれません。ただ、この研究の四分位の区切りが11.5時間から13.3時間の範囲にあることは、参加者の多くがそれだけ座っていたことを意味します。
この研究の限界
観察研究なので、因果関係を示したものではありません。座る時間が長い人にはほかの特徴もあり、それが結果に影響している可能性は残ります。
追跡が4.0年と比較的短く、参加者も米国の特定のコホートです。著者自身が「一般の米国人を代表しているとは限らない」と書いています。
「30分に1回」の出どころ
この数字は、座位を分断する実験で使われてきた条件です。
Dempseyらの2016年の研究では、2型糖尿病を持つ座位中心の成人24人が、3つの条件を別々の日に体験しました3。8時間座りっぱなしの条件、30分ごとに3分の軽い歩行を挟む条件、30分ごとに3分の簡単な筋活動(ハーフスクワット、かかと上げ、殿筋の収縮、膝上げ)を挟む条件です。
食事の内容は3条件でそろえてあります。結果は、座りっぱなしに比べて、歩行でも筋活動でも食後の血糖とインスリンの曲線下面積が小さくなりました。
注目したいのは、歩行と筋活動でほぼ同じ結果だったことです。 立ち上がって歩ける環境がなくても、椅子のそばでできる動きで代用できる可能性があります。
ただし、ここで測られたのは食後の代謝指標です。寿命や病気の発症を直接測った実験ではありません。24人という規模で、対象は2型糖尿病を持つ過体重・肥満の成人です。
「30分に1回」は、この種の実験で設定された間隔です。 31分座ったら急に何かが起きる、という境界ではありません。
なぜ短い分断で指標が動くのか
この実験は仕組みを直接調べたものではないので、断定はできません。ただ、研究者が想定している経路はあります。
長く座っていると、下半身の大きな筋肉がほとんど動かない状態が続きます。筋肉は血中のブドウ糖を取り込む主要な行き先のひとつで、収縮すると取り込みが増えます。3分の歩行や、その場でのハーフスクワットが効いた背景として、この経路が挙げられています。
歩行と筋活動でほぼ同じ結果だったことは、この見方と整合します。移動距離ではなく、筋肉が収縮したかどうかが効いている可能性がある、という読み方です。
ただし繰り返しになりますが、これは仮説です。この実験が測ったのは血糖・インスリン・C-ペプチド・中性脂肪の曲線下面積であって、筋肉での取り込みを直接測ったわけではありません。
「日本人は世界一座っている」は、どこまで言えるか
座りすぎの記事でよく見る一文です。20か国の比較で日本が最長だった、1日420分だ、という書き方をされます。
出どころは2011年のBaumanらの調査です4。20か国・49,493人の成人に質問紙で座位時間を尋ねたものです。
原典を読むと、書かれ方が少し違います。全体の中央値は1日300分(四分位範囲180〜480分)。そして座位時間が長い国として、台湾・ノルウェー・香港・サウジアラビア・日本が挙げられ、いずれも中央値360分以上と記されています。
日本は「長いほうのグループ」に入っていますが、単独で最長とは書かれていません。 「420分」という具体的な数字も、この論文の抄録には出てきません。
ここを正確に読む意味はあります。「世界一だから危ない」という枠組みだと、他国と比べて自分がどうか、という話になります。実際に見るべきは自分の合計時間と連続時間で、国際順位ではありません。
なお、この調査は質問紙による自己申告です。Diazらが加速度計で測った値のほうが実態に近いはずで、両者を並べて比べることはできません。
運動していれば相殺できるのか
よく聞かれる問いです。ここには比較的大きな解析があります。
Ekelundらは16件の前向きコホート研究のデータを統合し、100万人以上を対象に、座位時間と身体活動の組み合わせで死亡リスクを見ました5。
結果として、身体活動が最も多い群では、座位時間が長いことと死亡リスクの関連がほぼ見られませんでした。 一方、活動量が少ない群では関連が残りました。
ただし「最も多い群」の水準を見ておく必要があります。1日あたり60〜75分の中強度の身体活動です。早歩きなら1時間以上に相当します。
週に2回ジムに行く程度では、この水準には届きません。「運動しているから座りっぱなしでも平気」と読むには、前提が重すぎます。
厚労省のガイドが「身体を動かす時間の長短にかかわらず」と前置きしているのも、同じ方向です1。運動量が座位の影響を打ち消しうるのは高い水準に達したときだけで、多くの人にとっては別々に扱うべき項目になります。
実際にどう組むか
研究が測ってきたことから、実務に落とせる範囲を書きます。
まず、自分の連続時間を知るところからです。 合計時間は意識していても、1回あたり何分続けて座っているかを把握している人は少ない。会議の長さ、集中して作業する時間の長さを、そのまま連続座位時間として見ます。
分断の中身は、研究で使われたものが目安になります。3分程度の軽い歩行か、椅子のそばでできる簡単な筋活動。どちらでも食後の血糖とインスリンは同じように小さくなっていました。
会議中に立てない場面はあります。その場合は、会議と会議のあいだ、資料を読む前後といった切れ目に寄せます。続けられない設計にすると、そもそも実行されません。
分断を「思い出す」問題
研究の条件は30分ごとですが、実務では時計に従うより、既にある切れ目に紐づけるほうが続きます。
会議の終わり、資料を送信した直後、コーヒーを淹れに行くとき。こうした行動には既に区切りがあり、そこに数分の歩行を足すだけなら新しい習慣を作らずに済みます。
タイマーを使う方法もありますが、集中を切られることを嫌う人には合いません。その場合は、作業のまとまりが終わったところで立つ、という決め方のほうが現実的です。
どちらにしても、1日の合計を減らせない日はあります。移動もなく、会議が続き、席を離れる理由がない日。そういう日こそ、連続時間のほうに手を入れる余地が残ります。
| 場面 | 置きどころ |
|---|---|
| 長い会議が続く日 | 会議と会議のあいだに、席を立って歩く数分を入れる |
| 集中して作業する日 | 作業のまとまりごとに区切る。時計より、切りのよさで決める |
| 移動が多い日 | 移動そのものが分断になっている。無理に足さない |
| 在宅の日 | 席を立つ理由が減るので、意図的に予定へ入れる |
腰や肩に症状が出ている場合は、座位の分断だけで対処する話ではありません。デスクワークでの腰痛は腰痛とデスクワーク、肩まわりは肩こりの解消で扱っています。
座り姿勢そのものの設計は姿勢を整えるに、運動そのものを再開する段取りは運動不足の解消にまとめています。
ここで言い切れないこと
寿命への影響を直接検証した介入研究はありません。 Diazらの研究は観察研究で、Dempseyらの実験が測ったのは食後の代謝指標です。「30分ごとに立てば長生きする」という形で両者をつなぐことはできません。
分断の効果を測った実験は、対象・期間ともに限られています。Dempseyらの研究は24人・8時間の条件比較で、2型糖尿病を持つ成人が対象でした。健康な人で同じ大きさの変化が出るとは限りません。
「何分続けたら区切るべきか」の最適値も決まっていません。30分は実験で使われた間隔であって、その前後を比較して最適と判断されたわけではありません。
そして、座位時間が長いこと自体が原因なのか、それとも座る時間が長い生活に付随する何かが原因なのかは、観察研究からは切り分けられません。
まとめ
- 座位のリスクは合計時間だけでは決まらない。1回あたりの連続時間も独立して関連する
- 7,985人を加速度計で測った研究で、総座位時間が最も長い群のハザード比は2.63。四分位の区切りは1日約690分・747分・799分
- 「30分に1回」は実験で設定された間隔。31分を超えたら危険になる境界ではない
- 分断で測られたのは食後の血糖とインスリン。寿命を直接測った実験ではない
- 運動で関連がほぼ消えるのは1日60〜75分の中強度という水準。週2回のジムでは届かない
- 合計時間を減らせない日は、連続時間のほうを切るという選択肢が残る
参考文献
Footnotes
-
厚生労働省. 健康づくりのための身体活動・運動ガイド2023(概要). https://www.mhlw.go.jp/content/001204942.pdf ↩ ↩2
-
Diaz KM, Howard VJ, Hutto B, et al. Patterns of Sedentary Behavior and Mortality in U.S. Middle-Aged and Older Adults: A National Cohort Study. Annals of Internal Medicine, 167(7):465-475. 2017. https://doi.org/10.7326/M17-0212 ↩
-
Dempsey PC, Larsen RN, Sethi P, et al. Benefits for Type 2 Diabetes of Interrupting Prolonged Sitting With Brief Bouts of Light Walking or Simple Resistance Activities. Diabetes Care, 39(6):964-972. 2016. https://doi.org/10.2337/dc15-2336 ↩
-
Bauman A, Ainsworth BE, Sallis JF, et al. The Descriptive Epidemiology of Sitting: A 20-Country Comparison Using the International Physical Activity Questionnaire (IPAQ). American Journal of Preventive Medicine, 41(2):228-235. 2011. https://doi.org/10.1016/j.amepre.2011.05.003 ↩
-
Ekelund U, Steene-Johannessen J, Brown WJ, et al. Does physical activity attenuate, or even eliminate, the detrimental association of sitting time with mortality? A harmonised meta-analysis of data from more than 1 million men and women. The Lancet, 388(10051):1302-1310. 2016. https://doi.org/10.1016/S0140-6736(16)30370-1 ↩