Tonusのミニマルなイメージ

Sleep

夜中に目が覚める原因を、確からしさの順に並べる

夜中に目が覚めること自体は珍しくなく、欧州5か国22,740人の調査では週3晩以上の中途覚醒が31.2%に上ります。分かれ目は目覚めた後に戻れるかどうか。原因を確からしさで層に分け、目が覚めた後の過ごし方、床にいる時間を削る考え方、受診の目安までを一次研究から整理します。

夜中にふと目が覚めて、時計を見ると午前3時。そこから眠れずに天井を見ている。この経験そのものは、かなりありふれたものです。

欧州5か国の一般人口22,740人を対象にした調査では、週に3晩以上目が覚めると答えた人が31.2%いました1。おおよそ3人に1人です。

先に結論を言うと、問題になるのは目が覚めるかどうかではなく、そこから戻れるかどうかです。

この記事では、夜中に目が覚める原因を証拠の確からしさで層に分け、目が覚めた後に何をするか、そして「長く眠ろうとする」対処がなぜ裏目に出やすいのかを、一次研究にあたりながら整理します。

夜明け前の薄暗い寝室。乱れたベッドと、カーテンの隙間から差し込む青みがかった街の光。
イメージ

どこからが問題で、どこまでが普通なのか

先ほどの調査は、フランス、イギリス、ドイツ、イタリア、スペインの一般人口を対象にした横断調査です。ここで注目したいのは、2つの数字の差です。

週3晩以上目が覚める人が31.2%(95%信頼区間 30.6〜31.8%)だったのに対し、目が覚めた後に再び眠るのが難しいと答えた人は7.7%(同 7.4〜8.0%)でした1

前者は3人に1人、後者は13人に1人。同じ「夜中に目が覚める」でも、頻度がまるで違います。

そして日中への影響は、この2つで大きく分かれました。再入眠が難しい人は、同じ夜に1〜2回目が覚めるだけの人と比べて、日中の機能への影響を示すオッズ比が5〜7倍高く報告されています1

覚醒の回数が増えるほど、そして戻りにくいほど、影響が積み上がるという用量反応の関係も示されました。目が覚める回数を数えるより、戻れているかを見るほうが実態に近いということです。

もうひとつ、この調査は症状の長さも記録しています。再入眠が難しい人のうち78.8%は、その状態が1年以上続いていました1。数日で終わる不調ではなく、長く居座る性質のものだとわかります。

慢性の不眠症として扱われる線引き

医療の側では、線引きの目安がある程度定まっています。慢性の不眠症は一般に、週3回以上の症状が3か月以上続き、かつ日中の活動に支障が出ている状態として扱われます。

欧州睡眠研究学会の診療ガイドラインも、診断は睡眠習慣・睡眠環境・勤務スケジュール・体内時計の要因を含む問診と、睡眠日誌や質問票、身体診察を組み合わせて行うものとしています2

裏を返せば、たまに目が覚めるが日中は普通に働けている、という状態は、この線引きには当てはまりません。

中途覚醒と早朝覚醒は分けて扱う

不眠の症状は、現れる時間帯で呼び分けられます。寝つきに時間がかかるのが入眠困難、夜中に目が覚めて戻れないのが中途覚醒、予定より早く目が覚めてそのまま眠れないのが早朝覚醒です。

この記事が扱うのは中途覚醒です。ただし、自分がどれに当たるのかは意外とはっきりしません。

午前4時に目が覚めて眠れないまま6時を迎える、という場合、中途覚醒とも早朝覚醒とも読めます。どちらかを決めることより、何時に目が覚めて、そこから何をしたかを記録しておくほうが役に立ちます。

記録の取り方は後の節で扱います。

加齢で増えるのは健康な人でも同じ

健康な人だけを集めた65の研究、のべ3,577人分の睡眠を脳波などで記録したデータをまとめたメタアナリシスがあります3

成人ではっきりした傾向がひとつあります。加齢とともに、入眠後に目覚めている時間が有意に増えます。あわせて総睡眠時間、睡眠効率、深い睡眠の割合、REM睡眠の割合はいずれも減ります3

ここで重要なのは、この3,577人が病気を持つ人ではないことです。健康な人でも、年を取れば夜中に目覚める時間は増えます。

同じ研究は、効果の大きさが対象者のスクリーニングの質によって大きく変わることも指摘しています。精神疾患、器質的な病気、薬やアルコールの使用、睡眠時無呼吸などをどこまで除外したかで、加齢との関連は小さくも見えるし、覆い隠されもする3

つまり、年齢のせいだと片づけてしまうと、除外されるべきだった別の原因が紛れ込みます。次の節はそこを整理します。

原因を「確からしさ」で分ける

夜中に目が覚める理由を挙げた記事は多くありますが、たいていは横並びで列挙されます。加齢、ストレス、カフェイン、寝室環境、といった具合です。

しかし、これらは証拠の強さが揃っていません。研究で繰り返し確かめられているものと、機序としてありうるが直接の証拠が薄いもの、そして概念そのものが医学的に認められていないものが混ざっています。

3つの層に分けて考えるほうが、自分に当てはめやすくなります。

夜中に目が覚める原因を、証拠の確からしさで3層に分けた図。上から順に、証拠が比較的はっきりしているもの(アルコール、夜間頻尿、睡眠時無呼吸、床にいる時間と眠れる時間のずれ)、機序としてありうるもの(カフェイン、室温・音・光、日中のストレスによる覚醒の高まり)、根拠が弱いのに対策が売られているもの(副腎疲労、夜間低血糖、腸内環境の乱れ)。上の層から順に手をつける。
図1 証拠の強さで層に分けると、手をつける順序が決まる。

3層目について補足します。副腎疲労という言葉は健康情報でよく見かけますが、これを検証した系統的レビューは、内分泌学の学会がこの状態を認めておらず、存在を支持する確かな証拠がないと結論しています4

夜中に目が覚めるという症状に、こうした概念を根拠として自費の検査や栄養療法が勧められることがあります。支払う前に、それが何によって裏づけられているかを確かめる価値があります。

先ほどの欧州の調査は、夜間覚醒と統計的に結びつく要因も挙げています。痛みを伴う身体状態と精神疾患は4倍以上、ほかに高血圧、心血管疾患、上気道の疾患、糖尿病、そして多量のカフェイン摂取が関連していました1

ここに副腎疲労も血糖の乱高下も出てきません。まず1層目から見ていきます。

お酒は寝つきをよくして、後半を壊す

寝つきのためにお酒を飲む習慣がある人にとって、これはもっとも影響の大きい項目です。

健常者を対象にした研究を網羅的に検討したレビューによれば、アルコールはどの用量でも入眠までの時間を短くし、睡眠の前半をよりまとまったものにする一方で、後半の睡眠の分断を増やします5

前半と後半で逆向きに働く、という点が要点です。

さらに、REM睡眠が最初に現れるまでの時間はどの用量でも有意に遅れ、中〜高用量では夜間を通したREM睡眠の割合が減ります。前半の深い睡眠は増える方向に報告されており、この作用はREM睡眠の減少より頑健だとされています5

寝つきがよくなった感覚は本物です。ただし、その代償が後半に来ます。寝つきのよさと、夜中に目が覚めることは、同じ原因から来ている可能性があります。

飲む量とタイミングの調整については、アルコールが睡眠に与える影響で詳しく扱っています。

いびきの指摘があれば呼吸を先に見る

夜中に目が覚める原因のうち、生活の工夫では動かせないものがあります。睡眠中に呼吸が止まる、あるいは浅くなることで目が覚めているケースです。

このとき起きているのは「眠れない」ではありません。呼吸が滞って体が覚醒させられている状態です。本人には息苦しさの自覚がなく、ただ目が覚めたとしか感じないことも珍しくありません。

先ほどの欧州の調査でも、上気道の疾患は夜間覚醒と統計的に結びつく要因として挙がっていました1

見分ける手がかりは、自分ではなく周囲にあります。いびきが大きいと言われる、睡眠中に呼吸が止まっていると指摘された、というのが典型です。

あわせて、十分な時間眠ったはずなのに日中に強い眠気が出る、朝起きたときに頭が重い、口が渇いている、といったサインが重なる場合は、確認する価値が高くなります。

心当たりがあるなら、寝室環境やサプリメントを試す前に、ここを先に潰すのが順序です。

呼吸が原因であれば、室温を変えても寝具を替えても解決しません。医療機関では検査によって確認できます。

トイレが先か、目覚めが先か

夜中に目が覚める理由として、トイレを挙げる人は多くいます。ただし、この2つは順序が逆のことがあります。

尿意で目が覚めているのか、何らかの理由で目が覚めたついでにトイレに行っているのか。同じ行動でも、手をつける先が変わります。

日本の実態を示すデータがあります。2023年の全国調査で20〜99歳の6,210人を分析したところ、夜間に2回以上排尿のために起きる人は男性で27.1%、女性で17.8%でした6

年齢が上がるほど増え、男性では40歳以上で31.4%、60歳以上で39.8%、80歳以上では58.1%に達します。女性は40歳以上で19.9%、60歳以上で24.7%、80歳以上で38.2%でした6

同じ研究は、夜間頻尿と独立して結びつく要因も挙げています。年齢、高血圧、抑うつや不安、不眠、そして男性では前立腺肥大と、週に1回を超える飲酒でした6

飲酒がここにも出てくることに注意してください。お酒は睡眠の後半を分断すると同時に、夜間の排尿の要因としても挙がっています。

切り分けの目安はこうです。強い尿意で目が覚め、排尿してすぐ眠れるなら、泌尿器の側から考える順序になります。目は覚めているが尿意はそれほどでもなく、なんとなくトイレに行き、戻ってから眠れないなら、睡眠の側の問題です。

判断に迷う場合や、夜間に2回以上起きる状態が続く場合は、医療機関で相談する対象になります。

カフェインは、寝つけているうちは自覚しにくい

カフェインについては、寝つきへの影響ばかりが語られます。しかし夜中に目が覚める側にも関係します。

先ほどの欧州の調査は、夜間覚醒と結びつく要因のひとつとして多量のカフェイン摂取を挙げていました1

問題になりやすいのは、寝つきに困っていない人です。夕方のコーヒーを飲んでも眠れているから影響はない、と判断してしまいます。

ところが入眠と睡眠の維持は別の話で、寝つけていても後半が浅くなることがあります。寝つけているかどうかを、カフェインが抜けた証拠にはできません。

判断のしかたは単純です。午後のカフェインを2週間やめてみて、夜中の目覚めが変わるかを見ます。一般論として何分まで大丈夫かを議論するより、自分で試すほうが早く決着します。

やめる範囲はコーヒーだけではありません。緑茶、紅茶、エナジードリンク、一部の風邪薬や鎮痛剤にも含まれます。

摂取量と時間帯の考え方はカフェインの作用と時間で個別に扱っています。

寝室の環境は、効く順番がある

室温、音、光。どれも整えたほうがよいものですが、優先順位はつけられます。

夜中に目が覚める文脈で最初に見るのは温度です。睡眠の後半、明け方にかけて体温は下がります。この時間帯に室温が低すぎたり、逆に寝具で熱がこもったりすると、目が覚めやすくなります。

夏場に空調のタイマーを切って明け方に暑さで目が覚める、冬場に暖房を切って冷え込みで目が覚める。どちらもよくある形です。

次が音です。物音そのものより、音が変化する瞬間が覚醒につながります。一定の環境音があるほうが目覚めにくくなる場合があります。

光は入眠と体内時計への影響が中心ですが、明け方の光は早朝の覚醒に関わります。遮光の程度は、朝早く目が覚める人ほど見直す価値があります。

環境は、確実な原因を潰した後に整える項目です。ここから手をつけると、順番を間違えます。

日中の緊張が、夜まで持ち越される

眠れない人ほど、眠ろうとする努力が強くなります。この努力自体が覚醒を上げる、というのが不眠の扱いにくいところです。

夜中に目が覚めたとき、頭の中で起きていることを分解すると、たいてい2つに分かれます。ひとつは仕事や予定など具体的な内容の反芻。もうひとつは「あと何時間しか眠れない」という睡眠そのものへの心配です。

後者は、眠れないことが不安を生み、不安が覚醒を上げ、さらに眠れなくなるという循環をつくります。

不眠症の認知行動療法に認知的な要素が含まれるのは、この循環に手を入れるためです。欧州のガイドラインも、認知療法・刺激制御・睡眠制限・睡眠衛生・リラクセーションといった複数の要素を組み合わせる形を前提にしています2

日中にできることもあります。仕事の終わりに未完了の懸案を書き出しておくと、夜中に目が覚めたときに反芻する材料が減ります。

頭の中で覚えておこうとしているものが、夜に出てきます。

まず2週間、記録を取る

ここまで原因を並べてきましたが、自分がどれに当たるかは、記憶だけでは判断できません。

夜中に目が覚めた記憶は、印象に強く残るものです。眠れた夜は覚えていないため、実態より頻繁に感じられます。逆に、目が覚めているのに翌朝には忘れていることもあります。

欧州のガイドラインも、診断の手順として睡眠日誌と質問票を挙げています2。専門家が最初に見るのがこれだ、ということです。

記録する項目は多くありません。

項目記録するもの
床に入った時刻実際に横になった時刻
寝ついたと思う時刻おおよそでよい
目が覚めた回数と時刻朝に思い出せる範囲で
起きた時刻・床を出た時刻両方を分けて書く
前日の飲酒・カフェイン量と時刻
日中の眠気5段階などで簡単に

夜中に時計を見て正確に書こうとしないでください。それは避けたい行動そのものです。翌朝の記憶で十分です。

朝の光が差す机の上に開かれた罫線のノートと、伏せて置かれた腕時計。
イメージ 記録は翌朝にまとめて書けばよい

2週間続けると、いくつかのことが見えます。

  • 床にいる時間と、実際に眠れている時間の差
  • 飲酒した日の翌朝と、飲まなかった日の翌朝の違い
  • 目が覚める時刻に規則性があるかどうか
  • 週末に起床時刻がどれだけずれているか

数字にすることもできます。実際に眠れた時間を、床にいた時間で割ったものが睡眠効率です。0時に床に入り7時に出て、そのうち5時間半眠れたなら、5.5÷7で約79%になります。

この指標が使いやすいのは、後で出てくる治療の効果がここに現れるからです。認知行動療法で改善が確認されているのも、総睡眠時間ではなくこの睡眠効率のほうでした。

目安として85%を下回る日が続くなら、床にいる時間が長すぎる可能性を疑います。眠れないから長く床にいて、長く床にいるから効率が下がる、という関係になっていないかを見ます。

床にいる時間が実際の睡眠より1時間以上長いなら、それ自体が原因の候補になります。 次の節と、その後の睡眠制限の話につながります。

医療機関を受診する場合も、この記録があると話が早く進みます。

目が覚めた後、何をするか

ここからは、目が覚めた後の過ごし方の話です。

不眠症に対する認知行動療法には、刺激制御法と呼ばれる要素が含まれます。考え方は単純で、寝床を「眠れない場所」として学習しないようにする、というものです。

眠れないまま床にとどまり続けると、寝床と覚醒・焦りが結びついていきます。そこで、眠れない状態が続くならいったん寝床を離れ、眠気が戻ってから床に戻ります。

目安として15〜20分ほどが挙げられますが、ここで時計を見て測るのは逆効果です。残り何時間眠れるかを計算する行動そのものが、焦りを強めて覚醒を上げます。

体感で「しばらく眠れていない」と感じたら動く、という運用にします。時計を見ない、というのが実務上いちばん効く一手です。

寝床を離れた先で何をするかも決めておきます。明るすぎない場所で、退屈な本を読む程度がよく挙げられます。スマートフォンは操作そのものが覚醒を上げるため向きません。

照明を落とした部屋。小さな暖色のランプの下に開いたままの本と椅子があり、周囲は暗いままになっている。
イメージ 明るすぎない灯りと、画面を使わない過ごし方

夜のスマートフォンや照明の扱いは、夜のブルーライトと睡眠で個別に扱っています。

気にしないという助言は機能しにくい

「気にしないこと」と助言されることがありますが、これは実行しにくい指示です。気にしないでいようとする努力自体が、覚醒を上げる方向に働きます。

行動を先に決めておくほうが動けます。目が覚めた、しばらく眠れない、では寝床を出る。この手順にしておけば、気持ちの持ちようを操作する必要がありません。

逆説的だが、床にいる時間を削る

夜中に目が覚めて眠れなかった分、翌日は早めに寝床に入って取り返そうとする。自然な発想ですが、これは逆に働くことがあります。

実際に眠れる時間よりも床にいる時間が長いと、床の中で目覚めている時間が増えます。眠りは薄く広く伸ばされ、分断されやすくなります。

認知行動療法に含まれる睡眠制限法は、この関係を逆手に取ります。床にいる時間をあえて実際の睡眠時間に近づけ、眠りを凝縮させます。

この手法だけを取り出して検証したメタアナリシスがあります。9つの研究、1,239人を統合した解析では、睡眠制限法の単独実施が不眠症の重症度、入眠までの時間、睡眠の質、睡眠効率について対照群より良好な結果を示しました7

ただし、この手法では総睡眠時間そのものは対照群より減ります7。床にいる時間を削るのだから当然で、それが狙いでもあります。

だからこそ、自己流で試すものではありません。過程で日中の眠気が強く出るため、運転や危険を伴う作業に影響します。医療機関や専門家の指導のもとで行うことが前提の手法です。

不眠症の認知行動療法の全体像は、CBT-Iの構成要素で扱っています。

眠れなかった翌日を、どう立て直すか

夜中に目が覚めて眠れなかった翌日は、必ずやってきます。ここでの過ごし方が、次の夜を決めます。

やりがちで、かつ次の夜を悪くする行動が3つあります。

ひとつ目は、朝に長く寝床にとどまることです。眠れなかった分を朝で取り返そうとすると、起床時刻がずれて体内時計が動き、次の夜の眠気が出る時刻も後ろにずれます。

眠れなかった夜の翌朝こそ、起床時刻を動かさないほうが立て直しは早くなります。

2つ目は、長い昼寝です。日中の眠気が強いと1時間以上眠ってしまいがちですが、夜の眠気を先に使ってしまいます。短く切るほうが夜を犠牲にしません。長さの目安は昼寝の効果と長さで扱っています。

3つ目は、夕方以降のカフェインです。日中の眠気をしのぐために手が伸びますが、その夜の後半に影響します。使うなら午前から昼過ぎまでに寄せます。

逆に、この日にやっておくとよいことがあります。

朝に外の光を浴びることです。起床後の光は体内時計の位置を保つ働きがあり、夜の眠気が出る時刻を安定させます。曇りでも室内よりはるかに明るく、通勤や散歩の数分でも意味があります。

日中に体を動かすことも、その夜の眠気を作る側に働きます。眠れなかった日に激しい運動をする必要はなく、歩く量を戻す程度で構いません。

そして、その日の夜に「早く寝て取り返す」をしないことです。床にいる時間が伸びると、前の節で見たとおり分断が起きやすくなります。

一晩眠れなかったことより、それを取り返そうとする行動のほうが、次の夜に影響します。

治療で変わるのは、睡眠の「長さ」ではない

ここが、この記事でもっとも伝えたい部分です。

慢性の不眠症に対する認知行動療法の効果を、20の研究、1,162人(女性64%、平均年齢56歳)から統合したメタアナリシスがあります8

治療直後の変化は次のとおりでした。

指標改善幅95%信頼区間
入眠までの時間19.03分短縮14.12〜23.93
入眠後に目覚めている時間26.00分短縮15.48〜36.52
睡眠効率9.91ポイント改善8.09〜11.73
総睡眠時間7.61分増加−0.51〜15.74

最後の行を見てください。総睡眠時間の信頼区間は0をまたいでいます。統計的に有意な増加とは言えません8

慢性不眠症に対する認知行動療法で治療前後に変わった時間を比べた図。入眠後に目覚めている時間は26.0分短縮、入眠までの時間は19.0分短縮した一方、眠っていた時間の合計は7.6分の増加にとどまり統計的に有意ではない。削られたのは目覚めている時間で、眠る量そのものが増えたとは言えない。
図2 減っているのは目覚めている時間で、眠る量が増えたとは言えない。

つまり、この治療ではっきり確認されたのは「長く眠れるようになった」ことではなく、「床の中で目覚めている時間が減り、睡眠が詰まった」という変化です。総睡眠時間は7.6分の増加にとどまり、増えたとは言い切れません。

それでも日中の困りごとは改善します。有害な事象の報告もなく、効果は治療後の時点でも維持されたと報告されています8

この数字を自分に当てはめるとき、対象者を確認しておく価値があります。含まれた1,162人は女性が64%、平均年齢は56歳でした。また、他の病気や睡眠障害、精神疾患を併せ持つ不眠は解析から除外されています8

つまりこれは、他に目立った原因がない慢性不眠に対する数字です。痛みや呼吸の問題が背景にある場合、同じ結果がそのまま出るとは限りません。著者自身も、対象を絞ったことが適用範囲の限界だと述べています8

だからこそ、先に器質的な原因を潰す順序になります。

眠る量を増やそうとする発想そのものが、的を外している可能性があります。

欧州睡眠研究学会のガイドラインは、慢性不眠症に対する第一選択の治療として、年齢を問わず成人に認知行動療法を推奨しています。推奨の強さは strong、エビデンスの質は high と評価されています。薬物療法は、認知行動療法で十分な効果が得られないか、利用できない場合に提供されうる位置づけです2

順序が逆になっていないか、確認する価値があります。

薬の位置づけ

眠れない状態が続くと、市販の睡眠改善薬やサプリメントに手が伸びます。ただ、ガイドラインが示している順序は、行動の側を先に整えるというものでした2

医療機関で扱う薬にも複数の種類があり、どの薬が向くかは症状の型や年齢、他の病気や併用薬によって変わります。中途覚醒が中心なのか、寝つきが中心なのかでも選択は変わります。

自分で判断して重ねるより、状態を伝えて選んでもらうほうが確実です。先ほどの記録があると、この相談が具体的になります。

すでに何らかの薬を使っている場合、その薬自体が睡眠に影響していることもあります。中止や変更は自己判断で行わず、その薬を出した医療機関に相談してください。

受診を考える目安

ここまでの内容は、生活の側で手をつけられる範囲の話です。次のうち1つでも当てはまるなら、その範囲を超えています。

  • いびきや、睡眠中に呼吸が止まることを指摘された
  • 十分な時間眠ったはずなのに、日中に強い眠気が出る
  • 夜間に2回以上、トイレで起きる状態が続いている
  • 脚の不快感で眠りが妨げられる
  • 気分の落ち込みや不安が続いている、または痛みで目が覚める
  • 週3回以上の症状が3か月以上続き、日中の活動に支障が出ている

それぞれ、相談する先が変わります。

いびきを指摘される、睡眠中に呼吸が止まっていると言われた、日中に強い眠気があり仕事に支障が出ている、という場合は、睡眠時無呼吸の可能性を含めて医療機関で確認する対象です。夜中に目が覚める理由が呼吸の側にあるなら、寝室環境を整えても解決しません。

夜間に2回以上トイレで起きる状態が続く場合も、泌尿器科や内科で相談する対象になります。

脚に不快な感覚があって動かさずにいられない、じっとしていると強まり動くと楽になる、夕方から夜にかけて強くなる。こうした感覚で眠りが妨げられる場合は、むずむず脚症候群として知られる状態が当てはまることがあります。睡眠を扱う診療科で相談できます。

気分の落ち込みや不安が続いている場合、痛みで目が覚める場合も同様です。先ほどの欧州の調査で、痛みを伴う身体状態と精神疾患が再入眠困難と4倍以上の関連を示していたことを思い出してください1

そして、週3回以上の症状が3か月以上続き、日中の活動に支障が出ているなら、慢性の不眠症として扱われる領域です。自己判断で市販薬やサプリメントを重ねる前に、医療機関に相談してください。

最後に、順序を間違えないために

夜中に目が覚めること自体は、3人に1人が経験するありふれた現象で、年齢とともに増えるのは健康な人でも同じです13

分かれ目は、そこから戻れるかどうかにあります。戻りにくい状態は日中への影響が大きく、長く続きやすい性質があります1

そのうえで、手をつける順序は次のようになります。まず証拠がはっきりしている項目、つまりお酒、夜間の排尿、呼吸、そして床にいる時間と実際に眠れる時間のずれを確認します。次が環境とカフェインです。根拠の弱い概念に基づく検査や商品は、後回しにしてかまいません。

そして、目標を「長く眠ること」に置かないことです。効果が確かめられている治療でも、はっきり変わったのは睡眠の総量ではなく、床の中で目覚めている時間のほうでした8

この記事は、生活の側から見た整理です。原因が呼吸や排尿など体の側にある場合、ここまでの工夫では動きません。

迷ったときは、2週間の記録を持って医療機関に相談するのが、遠回りに見えていちばん早い経路になります。

睡眠全体の考え方は睡眠の質を上げる方法、寝つきそのものに課題がある場合は寝つきを改善する手順を参照してください。

本記事に掲載している写真は、一部AIで生成したイメージです。

参考文献

Footnotes

  1. Ohayon MM. Nocturnal awakenings and difficulty resuming sleep: their burden in the European general population. Journal of Psychosomatic Research, 2010;69(6):565-571. DOI: 10.1016/j.jpsychores.2010.03.010 2 3 4 5 6 7 8 9 10

  2. Riemann D, Baglioni C, Bassetti C, et al. European guideline for the diagnosis and treatment of insomnia. Journal of Sleep Research, 2017;26(6):675-700. DOI: 10.1111/jsr.12594 2 3 4 5

  3. Ohayon MM, Carskadon MA, Guilleminault C, Vitiello MV. Meta-analysis of quantitative sleep parameters from childhood to old age in healthy individuals: developing normative sleep values across the human lifespan. Sleep, 2004;27(7):1255-1273. DOI: 10.1093/sleep/27.7.1255 2 3 4

  4. Cadegiani FA, Kater CE. Adrenal fatigue does not exist: a systematic review. BMC Endocrine Disorders, 2016;16:48. DOI: 10.1186/s12902-016-0128-4

  5. Ebrahim IO, Shapiro CM, Williams AJ, Fenwick PB. Alcohol and sleep I: effects on normal sleep. Alcoholism: Clinical and Experimental Research, 2013;37(4):539-549. DOI: 10.1111/acer.12006 2

  6. Kira S, Shimura H, Mochizuki T, et al. Prevalence and Factors Associated With Nocturia (≥2 Night-Time Urinary Episodes) in Japan: Analysis of the 2023 Japan Community Health Survey (JaCS 2023). International Journal of Urology, 2026. DOI: 10.1111/iju.70504 2 3

  7. Wei J, Yang F, Li C, Dong X, Liu Y. The Effect of Single-Component Sleep Restriction Therapy for Insomnia in Adults: A Meta-Analysis of Randomised Controlled Trials. Journal of Sleep Research, 2026. DOI: 10.1111/jsr.70200 2

  8. Trauer JM, Qian MY, Doyle JS, Rajaratnam SM, Cunnington D. Cognitive Behavioral Therapy for Chronic Insomnia: A Systematic Review and Meta-analysis. Annals of Internal Medicine, 2015;163(3):191-204. DOI: 10.7326/M14-2841 2 3 4 5 6

FAQ

よくある質問

夜中に目が覚めるのは異常ですか?
目が覚めること自体は珍しくありません。欧州5か国の一般人口22,740人を対象にした調査では、週に3晩以上目が覚めると答えた人が31.2%を占めました。一方、目が覚めた後に再び眠るのが難しいと答えた人は7.7%で、日中の困りごととの結びつきはこちらのほうがはるかに強く、同じ夜に1〜2回目が覚めるだけの人と比べてオッズ比で5〜7倍でした。目が覚めるかどうかより、戻れるかどうかが分かれ目になります。
夜中に目が覚めたとき、何をすればよいですか?
不眠症の認知行動療法では、眠れないまま床にとどまる時間を長引かせない考え方をとります。目安として15〜20分ほど眠れない状態が続くなら、いったん寝床を離れて明るすぎない場所で静かに過ごし、眠気が戻ってから床に戻ります。時計を見て残り時間を計算する行動は、焦りを強めて覚醒を上げやすいため避けます。スマートフォンの操作も同様です。
眠れない分、早く寝床に入って補うのはよい方法ですか?
逆の方向に働くことがあります。実際に眠れる時間より床にいる時間が長いと、床の中で目覚めている時間が増え、眠りが分断されやすくなります。不眠症の認知行動療法に含まれる睡眠制限法は、床にいる時間をあえて実際の睡眠時間に近づけ、眠りを凝縮させる手法です。日中に強い眠気が出るため、自己流ではなく医療機関や専門家の指導のもとで行うことが前提になります。
お酒を飲むと寝つきはよいのに、夜中に目が覚めます。
健常者を対象とした研究のレビューでは、アルコールはどの用量でも入眠までの時間を短くし、睡眠の前半をまとまりやすくする一方で、後半の睡眠の分断を増やすと報告されています。寝つきのよさと夜中に目が覚めることは、同じ原因から来ている可能性があります。
何回目が覚めたら受診を考えるべきですか?
回数だけで決まるものではありません。慢性の不眠症は一般に、週3回以上の症状が3か月以上続き、日中の活動に支障が出ている状態を指します。あわせて、いびきや呼吸が止まることを指摘される、夜中に何度もトイレに起きる、日中に強い眠気が出る、気分の落ち込みが続くといったサインがあるときは、生活習慣の工夫の範囲を超えています。医療機関に相談してください。