クレアチンをいつ飲むか。トレーニングの前か後か、朝か夜か、休息日はどうするのか。検索するとどのサイトも「トレーニング後がベスト」と書いています。
けれども、その根拠を原典まで辿ると、話は違って見えてきます。トレーニング前と後を直接比較した研究は参加者19人の小規模なもので、統計的に有意な差は出ていません1。「摂取後のほうが有利かもしれない」という表現は、議論の残る解析手法による推定です。
クレアチンは、飲んだ瞬間に効く成分ではありません。筋肉と脳に貯めておいて、必要なときに使うためのものです。だとすれば効くかどうかを決めるのは「その日の何時に飲んだか」ではなく、「貯まっているかどうか」になります。この記事では、タイミングの議論を一次資料まで戻して検証し、代わりに何を管理すべきなのかを整理します。
飲んだ瞬間ではなく、貯まってから効く
出発点になるのは1996年の古典的な研究です。31人の男性を対象に、摂取量と期間を変えて筋肉中のクレアチン濃度を測ったところ、次のことがわかりました2。
1日20gを6日間続けると、筋肉の総クレアチン濃度はおよそ20%増加します。その後は1日2gの摂取でこの水準を維持できました。一方、1日3gを28日間続けた場合も、同じくおよそ20%の増加に到達します。速度は緩やかですが、行き着く先は同じです。
そして摂取をやめると、濃度は徐々に下がり、30日後には摂取前の値と区別がつかなくなりました。
この3つの事実が、「いつ飲むか」という問いの前提を変えます。クレアチンは血中濃度のピークを狙って効かせる成分ではなく、組織に貯蔵して水位を保つ成分です。水位が上がるまでに数週間かかり、止めれば数週間かけて下がる。この時間スケールに対して、「トレーニングの30分前か直後か」という数十分の差が持つ意味は、直感よりずっと小さいことになります。
| 摂り方 | 筋貯蔵が高まるまでの期間 | 筋クレアチンの増加 | 維持に必要な量 |
|---|---|---|---|
| ローディングあり(20g/日) | 6日 | 約20% | その後 2g/日 |
| ローディングなし(3g/日) | 28日 | 約20% | 継続摂取 |
| 摂取を中止 | 30日で元の水準へ | — | — |
なお、この研究も、次に見るタイミング研究も、参加者は男性です。クレアチン研究の基礎データは男性を対象としたものに偏っており、この点は後の女性の項で改めて触れます。
トレーニング前か後かは、決着していない
では、よく見かける「トレーニング後がベスト」という結論はどこから来たのか。多くの記事が参照しているのは、2013年の研究です1。
内容を正確に見ます。参加者は19人のレクリエーショナル・ボディビルダー(男性)。5gのクレアチンを、運動の直前に摂る群と直後に摂る群に分け、4週間トレーニングしました。結果は、除脂肪体重とベンチプレス1RMのどちらにも時間による変化はあったものの、摂取タイミングと時間の有意な交互作用は認められませんでした。つまり、前と後で差があるとは統計的に示せなかった、ということです。
著者らが「運動後の摂取のほうが有利かもしれない」と述べたのは、マグニチュード・ベースド・インファレンスという手法による推定です。この手法は、スポーツ科学の方法論をめぐる議論のなかで、偽陽性を生みやすいという批判を受けてきました。19人という規模と合わせて考えれば、ここから「トレーニング後がベスト」と断言するのは、根拠に対して結論が重すぎます。
念のため付け加えると、これは「タイミングによる差は存在しない」ことの証明でもありません。差があるとしても、この規模の研究では捉えられなかった、というのが正確な読み方です。いずれにせよ、断言できるだけの根拠は今のところない、というのが現状です。
国際スポーツ栄養学会のポジションスタンドが推奨しているのも、時刻ではなく量です。1日3〜5g、あるいは体重1kgあたり0.1gという用量で、これが安全かつ有効な範囲として示されています3。
タイミングを気にするより、飲み忘れをなくすほうが結果につながります。「トレーニング後」という習慣づけに意味があるとすれば、それは生理学的な優位性ではなく、忘れにくいタイミングだからです。
それでも「食事と一緒に」には理由がある
タイミングの議論のうち、比較的しっかりした根拠があるのは、時刻ではなく「何と一緒に飲むか」のほうです。
1996年の研究では、24人の男性を対象に、5gのクレアチンだけを摂る群と、5gのクレアチンの30分後に93gの糖質を摂る群を比較しました。いずれも1日4回、5日間続けるという条件です。結果、筋肉の総クレアチン増加量は、糖質を併せて摂った群のほうが60%大きくなりました4。クレアチン単独では血中インスリン濃度は変わりませんでしたが、糖質を併用した場合は顕著に上昇しています。
インスリンが筋肉へのクレアチンの取り込みを助けている、という機序です。
ただし、この条件をそのまま日常に持ち込むことはできません。1回93gの糖質を1日4回というのは、実験のために組まれたローディング条件であって、日常の食事とはかけ離れています。ここから言えるのは「インスリンが出る状況では取り込みが増える」という方向性までで、「普通の食事と一緒に摂れば同じ効果が得られる」ことまでは示されていません。
実務としては、空腹時に水だけで流し込むより、炭水化物を含む食事と一緒に摂るほうが理にかなっている、という程度に受け取るのが妥当でしょう。取り込みを増やすために糖質を追加で足す必要は、少なくとも日常の使い方ではありません。
休息日こそ飲む
「トレーニングした日だけ飲めばいい」という誤解は、クレアチンを即効性の成分と捉えているところから生まれます。
前述のとおり、摂取を止めれば濃度は30日かけて下がっていきます2。週2回のトレーニング日だけ摂るという飲み方は、水位を保つには足りません。運動の有無にかかわらず毎日摂る、というのが貯蔵型の成分に対する正しい扱い方です。
休息日の時刻は、さらにどうでもよくなります。トレーニングがない日は「運動後」という基準そのものが存在しないからです。朝食と一緒でも、夕食と一緒でも構いません。決めた時刻に習慣として固定するほうが、飲み忘れが減ります。
ローディングは必要か
1日20gを1週間続けるローディング。これも「必須の手順」として語られがちですが、そうではありません。
先ほどの研究が示したとおり、1日3gを28日続ければ、ローディングと同じ約20%の増加に到達します2。ローディングの価値は、到達点を高くすることではなく、到達を早めることにあります。国際スポーツ栄養学会も、ローディング期は必須ではないという立場を明確にしています5。
| ローディングあり | ローディングなし | |
|---|---|---|
| 用量 | 20g/日(4回に分割)×5〜7日 → 3〜5g/日 | 3〜5g/日を継続 |
| 効果の発現 | 約1週間 | 約4週間 |
| 到達点 | 約20%増 | 約20%増(同等) |
| 胃腸の不快感 | 出やすい | 出にくい |
| 向く人 | 特定の日程に間に合わせたい人 | 期限がない人(多くの場合こちら) |
期限がないのであれば、ローディングをしない理由のほうが多くなります。一度に大量に摂ると腹部の不快感が出やすく、それで継続をやめてしまえば本末転倒だからです。
運動をしない人にとっての「いつ」
クレアチンを筋肉のためだけの成分と考えていると、この問いは出てきません。しかし脳もまた、クレアチンを大量に使う臓器です。
健康な人を対象とした無作為化比較試験のメタ分析では、クレアチン摂取が記憶の指標を改善したと報告されています(標準化平均差0.29、95%信頼区間0.04〜0.53)。66〜76歳の高齢者に限ると、その効果はより大きくなっていました(同0.88)6。
ただし、この結果は割り引いて読む必要があります。同じ雑誌に対して、この分析には統計処理の不備によるデータの二重カウントがあり、偽陽性の結論を導いた可能性があるという指摘が寄せられているためです7。効果の方向は支持されるとしても、その大きさは慎重に見るべきでしょう。
認知面での効果の詳細はクレアチンの効果で扱っています。運動をしない人にとっても、飲むべき「時刻」は特にありません。毎日続けることだけが条件です。
眠れなかった翌日に、単回で効くか
ひとつだけ、「いつ飲むか」が意味を持つ場面が報告されています。睡眠不足のときです。
2024年の研究は、21時間の睡眠遮断下で、体重1kgあたり0.35gという高用量のクレアチンを1回だけ摂取させ、脳内のエネルギー代謝物と認知機能を測定しました。その結果、通常なら数週間の継続摂取が必要とされる脳内クレアチンの変化が単回摂取後に観察され、認知機能と処理速度の改善、睡眠遮断による脳内pHの低下の抑制が報告されています8。
興味深い結果ではあります。ただし、これを自分で試すことは勧めません。健康な若年者を対象に、管理された環境で行われた単回投与の実験であって、日常的な使い方を示したものではないからです。0.35g/kgは体重70kgで24.5gにあたり、通常の推奨量(3〜5g)の5倍以上にあたります。
腎疾患や肝疾患で治療を受けている方、薬を服用中の方、妊娠中・授乳中の方、18歳未満の方は避けてください。また、徹夜明けの運転や危険を伴う作業、重要な判断を、この種の対処で乗り切ろうとしないでください。眠っていない状態を薬理的に覆い隠すことと、判断力が戻ることは別です。徹夜明けの対処としては睡眠の質を上げる設計や昼寝のプロトコルのほうが、リスクの小さい選択肢になります。
女性では前提が違う
競合する解説記事のほとんどが触れていない論点です。
2021年のレビューによれば、女性の内因性クレアチン貯蔵量は男性より70〜80%低いと報告されています9。ただしこれは体内の総量に関する指標であり、筋肉中の濃度という別の物差しで見ると必ずしも同じ方向にはならないことも、同じレビューは示しています。「女性は不足しているから多く摂るべき」と単純化できる話ではありません。
同レビューが整理しているのは、むしろ研究の不足そのものです。月経周期、妊娠、産後、閉経の前後でクレアチンの動態がホルモンの影響を受けること、閉経後の女性では高用量(体重1kgあたり1日0.3g)で筋量や機能に好ましい変化がみられたこと、気分や認知への効果が期待されることが挙げられていますが、いずれも男性ほどの研究の蓄積はありません。
言えるのは、クレアチンが筋トレをする男性のためだけの成分という枠には収まらないこと、そして女性については前提が違う可能性があるのに検証が足りていないことです。ここでも「いつ飲むか」は論点になりません。
腎臓や体重増加はどうか
販売サイトが自社商品との関係で書きにくい論点なので、公平に整理します。
国際スポーツ栄養学会のポジションスタンドは、健康な人における短期および長期の摂取(1日最大30g、最長5年)について、忍容性が高いと報告しています。検討された対象には、乳児から高齢者まで、複数の患者集団が含まれます3。推奨量の範囲において腎機能の悪化を示す一貫した証拠は確認されていない、というのが現在の整理です5。
これは健康な人についての報告であって、すべての人に当てはまるものではありません。腎疾患などで治療を受けている場合、腎機能に不安がある場合、薬を服用中の場合は、自己判断せず医師に相談してください。
体重の増加については、摂取初期に筋肉内へ水分が引き込まれることによる増加が起こりえます。これは脂肪の増加とは別のもので、多くの場合は数週間で落ち着きます。この点も、よくある誤解として整理されています5。
実際にどう置くか
ここまでの内容を、1日と4週間に落とします。
| 項目 | 推奨 |
|---|---|
| 量 | 1日3〜5g(体重1kgあたり0.1g) |
| 時刻 | 決めた時刻ならいつでもよい。忘れない時刻を選ぶ |
| 一緒に摂るもの | 炭水化物を含む食事。空腹時に水だけで流し込まない |
| 休息日 | 飲む。運動の有無は関係ない |
| ローディング | 期限がなければ不要 |
| 効果の判定 | 4週間続けてから。数日で判断しない |
| やめたとき | 約30日かけて元の水準に戻る |
最初の4週間で見るのは、体重の増減ではなく、同じ重量を扱ったときの反復回数や、夕方まで残る集中の質です。数日で何も感じないからといって切り替えるのは、貯まるまでの時間を無視した判断になります。
カフェインとの併用については、両者が競合するという説が長く語られてきました。この点は結論が定まっていないため、気になる場合は摂取のタイミングを数時間ずらせば足ります。カフェイン自体の効果時間についてはカフェインの効果は何時間続くかにまとめています。
運動後の回復設計は運動後のリカバリー、筋トレと脳の関係は筋トレと脳、栄養全体の設計はパフォーマンス栄養の基礎を参照してください。
なお、腎疾患・肝疾患などで治療を受けている方、妊娠中・授乳中の方、薬を服用中の方は、摂取の可否について医療機関にご相談ください。
参考文献
Footnotes
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Antonio J, Ciccone V (2013). The effects of pre versus post workout supplementation of creatine monohydrate on body composition and strength. Journal of the International Society of Sports Nutrition, 10:36. DOI: 10.1186/1550-2783-10-36 [PMID: 23919405] ↩ ↩2
-
Hultman E, Söderlund K, Timmons JA, Cederblad G, Greenhaff PL (1996). Muscle creatine loading in men. Journal of Applied Physiology, 81(1):232-237. DOI: 10.1152/jappl.1996.81.1.232 [PMID: 8828669] ↩ ↩2 ↩3
-
Kreider RB, Kalman DS, Antonio J, et al. (2017). International Society of Sports Nutrition position stand: safety and efficacy of creatine supplementation in exercise, sport, and medicine. Journal of the International Society of Sports Nutrition, 14:18. DOI: 10.1186/s12970-017-0173-z [PMID: 28615996] ↩ ↩2
-
Green AL, Hultman E, Macdonald IA, Sewell DA, Greenhaff PL (1996). Carbohydrate ingestion augments skeletal muscle creatine accumulation during creatine supplementation in humans. American Journal of Physiology, 271(5 Pt 1):E821-826. DOI: 10.1152/ajpendo.1996.271.5.E821 [PMID: 8944667] ↩
-
Antonio J, Candow DG, Forbes SC, et al. (2021). Common questions and misconceptions about creatine supplementation: what does the scientific evidence really show? Journal of the International Society of Sports Nutrition, 18(1):13. DOI: 10.1186/s12970-021-00412-w [PMID: 33557850] ↩ ↩2 ↩3
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Prokopidis K, Giannos P, Triantafyllidis KK, et al. (2023). Effects of creatine supplementation on memory in healthy individuals: a systematic review and meta-analysis of randomized controlled trials. Nutrition Reviews, 81(4):416-427. DOI: 10.1093/nutrit/nuac064 [PMID: 36018740] ↩
-
Eckert I, Kumbier MCC (2023). Letter to the Editor: Double-counting due to inadequate statistics leads to false-positive findings in “Effects of creatine supplementation on memory in healthy individuals”. Nutrition Reviews, 81(6):750-751. DOI: 10.1093/nutrit/nuac108 ↩
-
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-
Smith-Ryan AE, Cabre HE, Eckerson JM, Candow DG (2021). Creatine Supplementation in Women’s Health: A Lifespan Perspective. Nutrients, 13(3):877. DOI: 10.3390/nu13030877 [PMID: 33800439] ↩