「免疫力を高める」と銘打った食品やサプリメントは数多くありますが、研究の側から見ると、これを摂れば免疫力が高まる、と言い切れるものは見当たりません。先に要点をまとめます。
「免疫力」はそもそも一つの数値で測れる指標ではなく、特定の栄養素と風邪や呼吸器感染の関係を調べた研究でも、報告されている効果は控えめで条件付きです。
そして「体を温める」「笑う」「腸活」といった日常よく聞く話は、根拠の厚みがそれぞれ大きく違います。
ここでは、その違いを一次研究にあたって整理し、栄養素ごとにどこまで分かっているのか、不足している人と足りている人では何が変わるのか、確かさで並べると何を先にやるべきかまでを扱います。
「免疫力」は一つの数値ではない
免疫は単一の力ではなく、役割の違う仕組みが層になって働くシステムです。最初に体を守るのは皮膚と粘膜のバリアで、鼻や喉の粘膜は入ってきた病原体を物理的に押し流し、粘液に含まれる成分で増殖を抑えます。
それをすり抜けたものには、好中球やマクロファージ、NK細胞といった自然免疫の細胞がその場で反応します。
さらに時間をかけて、T細胞やB細胞が相手を特定して抗体をつくり、次に同じ相手が来たときに素早く反応できる記憶を残します。
つまり「免疫が高い・低い」を血液検査の一項目で言い表すことはできません。白血球の数が多いことも、NK細胞の活性が高いことも、それぞれ一つの側面を測っているにすぎず、感染しにくさそのものを表す数値ではないからです。
「免疫力が◯%アップ」という表現が研究の言葉で書かれることがないのは、そもそも測る対象が定まっていないためです。
栄養と免疫の関係そのものは、長く研究されてきたテーマです。Calderは2020年に、栄養が免疫機能を支える土台であり、複数の栄養素の不足が感染への抵抗を弱めうることを整理しました1。
Hatch-McChesneyとSmithの2023年の総説も、軍の要員という身体的負荷の大きい集団を対象に、栄養状態と免疫機能、感染症の関係をまとめています2。
どちらも語っているのは主に「不足があると不利になる」という方向であって、足りている人がさらに足せば強くなる、という話ではありません。この向きの違いが、この記事を通じての基準になります。
免疫の働きが弱まりやすいとき
「上げる」ことを考える前に、何が働きを弱めるのかを見たほうが実際的です。ここには比較的しっかりした研究があります。
加齢による変化は止められない
年齢とともに胸腺が縮小し、新しい相手に対応できるT細胞の多様性が細くなること、ワクチンへの反応が鈍くなることなどが、免疫老化として整理されています3。
これは誰にでも起きる変化で、食事で止められるものではありません。だからこそ、変えられる要因に力を割く意味があります。
睡眠を削ると発症しやすくなる
変えられる要因のうち、最も明確な証拠があるのが睡眠です。Pratherらは2015年に、18歳から55歳の健康な男女164人の睡眠を、腕に装着した活動量計で7日間測ったうえで、ライノウイルスを点鼻して隔離し、5日間観察しました。
1晩あたりの睡眠が5時間未満だった人は、7時間を超えていた人と比べて風邪を発症する確率が高く(オッズ比4.50、95%信頼区間1.08〜18.69)、5〜6時間の人でも同様でした(オッズ比4.24、95%信頼区間1.08〜16.71)。6〜7時間の人では明確な差はありませんでした4。
同じ量のウイルスを浴びせて発症率を比べた研究であり、睡眠の短さと感染しやすさの関係を示す証拠としては強い部類に入ります。
睡眠を削っている自覚があるなら、睡眠負債の返し方を先に見直すほうが、サプリメントを探すより筋が通っています。
ストレスは用量反応で効いた
心理的なストレスも、同じ手法で調べられています。Cohenらは1991年に、健康な394人にストレスの度合いを回答してもらったうえで5種類の呼吸器ウイルスのいずれかを点鼻し、隔離して観察しました。
ストレス指標が高い人ほど感染率も発症率も高く、感染率はおよそ74%から90%、風邪の発症はおよそ27%から47%まで、段階的に上がりました5。喫煙や飲酒、運動、食事、睡眠の質といった要因で調整しても関係は残っています。ストレスとの向き合い方はストレスとコルチゾールの管理で扱っています。
飲酒・喫煙と極端な食事制限
このほか、習慣的に多量の飲酒を続けることが免疫の複数の側面に影響しうること6、喫煙が免疫応答のバランスを崩す方向に働くこと7も報告されています。
飲酒については睡眠の質の面でも不利が重なるため、アルコールと睡眠の関係もあわせて見ておくと判断しやすくなります。極端な食事制限を続けている場合は、後述する栄養素の不足そのものが起きやすくなります。
要点を一つにまとめると、免疫について現実的にできるのは、押し上げることよりも、落とす要因を持ち込まないことです。
よく聞く話を研究で確かめる
免疫の話題では、根拠の厚みが大きく違うものが同じ調子で並べられがちです。よく見かける6つについて、研究で確かめられている範囲を整理します。
| よく聞く話 | 研究で報告されていること | 確かさの度合い |
|---|---|---|
| 体を温めると免疫力が上がる | 発熱時の体温上昇が免疫の働き方に関わる、という基礎研究はある | 平熱を上げる話とは別。裏づけは見当たらない |
| 寒いと風邪をひきやすい | 冷気にさらされると鼻の粘膜の抗ウイルス反応が弱まる実験がある | 機序としては説明がつく段階 |
| 激しい運動の後は免疫が落ちる | 「オープンウィンドウ」という見方は再検討が進んでいる | 通説の側が見直されつつある |
| 笑うとNK細胞が増える | 小規模な試験で活性の上昇が報告されている | 感染の減少までは示されていない |
| 腸活をすれば免疫力が上がる | 発酵食品を増やす食事で炎症指標が下がった試験がある | 36人の小規模試験。感染が減るかは未検証 |
| ビタミンCを多く摂れば風邪を防げる | 一般の人の発症を防ぐ働きは乏しい | 予防としては否定的 |
体を温めると免疫力が上がる
体温の話から見ていきます。発熱という現象が免疫にとって意味を持つこと自体は、Evansらが2015年の総説で整理しているとおり、基礎研究のテーマとして扱われてきました8。
ただしこれは、感染時に体温が上がる場面で何が起きているかを説明したものであって、平熱を上げれば感染しにくくなるという意味ではありません。
「体温が1度下がると免疫力が大きく落ちる」といった数字が独り歩きしていますが、その出どころにあたる研究は見当たりません。
寒いと風邪をひきやすい
一方、寒さと感染のつながりには、機序の側から近づいた研究があります。
Huangらは2023年に、ヒトの鼻粘膜の組織と細胞を使い、鼻の上皮から放出される小胞がウイルスに対する防御に関わっていることを示したうえで、低い温度にさらすとその放出量や働きが落ちることを報告しました9。
冬に上気道の感染が増える理由の説明として有力ですが、これはヒトの体で発症率を比べた研究ではなく、実験室で組織を調べた段階のものです。
冷えを避けること自体は妥当でも、温めれば免疫が底上げされるという話にはつながりません。
激しい運動の後は免疫が落ちる
運動については、通説の側が見直されています。激しい運動の後は一時的に免疫が落ちて感染しやすくなる、といういわゆるオープンウィンドウ仮説について、CampbellとTurnerは2018年の総説で、根拠とされてきた3つの柱を検討し直しました。
運動後に唾液中の免疫グロブリンAが減ることは免疫抑制の合図とは言えないこと、運動の1〜2時間後にリンパ球が減るのは血液中から末梢の組織へ配置が移っているためで、抑制ではなく監視の強化と解釈できることを示し、急性の運動を免疫抑制と呼ぶのは誤解だと結論づけています10。
運動不足の解消をためらう理由にはならない、というのが現在の見方です。座っている時間が長い自覚があるなら、運動不足の解消から始めるほうが優先度は高くなります。
笑うとNK細胞が増える
笑いとNK細胞の関係は、健康番組でよく取り上げられるテーマです。BennettとLengacherが2009年にまとめた総説を読むと、報告されている研究の実態が分かります。
よく引用されるBerkの一連の研究は健康な男性52人が1時間のユーモア映像を見たもので、NK細胞の活性や免疫グロブリンの上昇が報告されていますが、別の研究は「サンプルが非常に小さく、抄録の形でしか公表されていない」と評されており、陽性の結果を示した研究の多くが男性のみを対象としていることも指摘されています11。
血液の指標が動いたことと、実際に感染が減ることの間には距離があります。笑うことが悪いはずはありませんが、免疫の手段として位置づけるだけの証拠はありません。
腸活をすれば免疫力が上がる
腸内環境については、比較的しっかりした介入研究があります。Wastykらは2021年に、健康な成人を発酵食品を増やす群と食物繊維を増やす群に分け(各群18人)、17週間の食事介入を行いました。
発酵食品群では腸内細菌叢の多様性が着実に増え、複数の炎症関連タンパクが下がりました。一方、あらかじめ主要な評価項目としていたサイトカイン応答スコアは、食物繊維群では変化しませんでした12。
食事のパターンが体内の指標を動かしうることを示した点で価値のある研究ですが、参加者は合計36人、期間は17週間で、動いたのは細菌叢の多様性と炎症関連の指標です。感染症の発症が減るかどうかは、この試験では調べられていません。
プロバイオティクスについては、2022年に更新されたコクランレビューが、23の試験に参加した合計6,950人のデータを統合しています。対象は生後1か月から11歳の小児、平均37.3歳の成人、平均84.6歳の高齢者と幅があります。
上気道感染と診断された人数は減る可能性があり(リスク比0.76、95%信頼区間0.67〜0.87、16試験4,798人)、症状の続いた日数は平均1.22日短い可能性があるものの、いずれも確実性は低いと評価されています13。
方向としては良い結果ですが、効果の大きさと確からしさを冷静に見ておく必要があります。腸と全身のつながりは腸脳相関でも扱っています。
ビタミンCで風邪を防げる
ビタミンCを大量に摂れば風邪を防げる、という広く定着した話については、HemiläとChalkerが2013年のコクランレビューで整理しています。一般の人の発症を防ぐ働きは乏しく、期間がわずかに短くなりうる程度、というのが結論です14。
ひいてから飲み始める使い方も、期間の短縮という点では一貫した結果が出ていません。
栄養素ごとに分かっていること
「免疫によい」と挙げられることの多い栄養素について、報告されている範囲を並べると、限定的で条件付きだと分かります。
| 栄養素 | 報告されていること | 確かさ・注意点 |
|---|---|---|
| ビタミンD | 補給で急性呼吸器感染のリスクがわずかに下がる。不足の強い人ほど関連が大きい | 不足の是正が中心。日本では不足が珍しくない |
| 亜鉛 | 予防目的の摂取では発症の差は小さいか無い。発症後の期間は短くなる可能性 | 確実性は低く、軽い不調の報告は増える |
| プロバイオティクス | 上気道感染と診断される人数が減る可能性 | 確実性は低く、菌株や対象で差が大きい |
| ビタミンC | 一般の人の発症予防は乏しい | 日常摂取で期間がわずかに短縮しうる程度 |
ビタミンDは不足の是正が中心
ビタミンDは、この中では最もデータが厚い栄養素です。Martineauらは2017年に、0歳から95歳までの11,321人が参加した25件のランダム化比較試験を対象に、そのうち個々の参加者のデータが得られた10,933人(96.6%)を統合しました。
全体では急性呼吸器感染のリスクが下がる方向の結果が出ています(調整オッズ比0.88、95%信頼区間0.81〜0.96)。
そのうえで著者らは、不足が著しかった人ほど恩恵が大きかったと結論づけています。大量を一度に投与する方式ではなく、毎日または毎週こまめに摂った人でも同様でした15。
一方、Fangらの2023年のメタ分析は健康な小児を対象としたもので、対象や条件によって結果が一様でないことを示しています16。ここでも、効くかどうかは「誰が摂るか」に強く依存します。
日本に住んでいる人にとって、この「誰が」は他人事ではありません。
Yasuokaらが2023年に報告した横断研究では、北緯34.7度から35.0度の地域に住む20歳から72歳の1,177人(男性348人、女性829人)について血中の25水酸化ビタミンD濃度を測ったところ、欠乏に該当したのは男性で33%、女性で59%、不足に該当したのは男性で46%、女性で32%でした17。
特定の地域の健診受診者を対象にした調査であり、日本人全体の割合とみなすことはできません。それでも、日照が少ない生活や魚を食べる機会の減少を考えると、自分は足りているはずだ、という前提を置かないほうが安全です。
亜鉛は評価が下がった
亜鉛については、近年になって評価が変わりました。
かつてHemiläが2011年に、1日75mgを超える高用量の亜鉛トローチを用いた試験を統合し、酢酸亜鉛では風邪の期間が42%短縮したと報告したこともあり(95%信頼区間35〜48%)、低用量では効果が見られなかったことと合わせて、用量が結果を分けるという見方が知られていました18。
ところが2024年に公表されたコクランレビューは、34件の研究に参加した8,526人を対象に、目的別に結果を出し直しました。
予防目的で摂った場合、風邪をひくリスクの差は小さいか無い可能性が高く(リスク比0.93、95%信頼区間0.85〜1.01、9研究1,449人、確実性は低い)、ひいてから摂った場合は期間が平均2.37日短い可能性があるものの、研究間のばらつきが非常に大きく確実性は低いと評価されています(8研究972人)。
あわせて、治療目的で摂った場合には重篤でない不調の報告が増えることも示されました(リスク比1.34、95%信頼区間1.15〜1.55、16研究2,084人)19。
なお試験で使われたのは高用量のトローチであり、日本で一般に流通しているサプリメントの摂り方とは条件が違います。
研究が積み上がるほど効果が小さく見えていく典型で、日常的に飲み続ける根拠としては弱いというのが現在の到達点です。
不足を補う人と足りている人の違い
栄養素を考えるうえで取り違えやすいのが、不足を補うことと、足りている人がさらに足すことを同じに扱ってしまう点です。研究で効果が見えやすいのは前者で、後者でははっきりした上乗せが確認されにくく、代わりに過剰摂取の害が問題になります。
| 不足・欠乏がある人 | 足りている健康な人 | |
|---|---|---|
| 栄養素を補う意味 | 不足の是正で抵抗が戻りうる | 上乗せ効果ははっきりせず、過剰のリスク |
| 優先すること | 食事や検査で不足を確かめて補う | サプリメントより睡眠・運動・総合的な食事 |
では、どういう人が不足に陥りやすいのでしょうか。極端な食事制限やダイエットを続けている人、外食や単品の食事が多く品目が偏っている人、飲酒量が多い人は、特定の栄養素が足りなくなりやすい側です。
日照の少ない生活が続く人ではビタミンDが不足しやすく、先ほどの日本での測定結果もその文脈で読めます。逆に、多品目をバランスよく食べられている人がサプリメントで上乗せしても、得られるものは大きくありません。
自分が補うべき側かどうかを、思い込みではなく食事の内容や健診の結果から確かめることが、費用も体も無駄にしない出発点になります。
なお、亜鉛やビタミンDは長期に過剰をとると別の不調につながることがあります。複数の商品を重ねると、同じ栄養素を知らないうちに多く摂ってしまうこともあります。
基礎疾患がある人や薬を使っている人は、相互作用の可能性があるため、医師や薬剤師に相談してから使うのが安全です。
食事はどう組み立てるか
個別の栄養素より先に効いてくるのが、欠乏を作らない食事の構成です。特定の一品を免疫食と決め打ちするより、偏りを作らないほうが理にかなっています。
何を食卓に置くか
たんぱく質は抗体や免疫細胞の材料になるため、魚・肉・卵・大豆製品から毎食とれているかがまず要点になります。緑黄色野菜や果物はビタミンAやビタミンC、葉酸などを補い、きのこや海藻、豆類は食物繊維の供給源になります。
発酵食品については、先に見た17週間の試験が食事のパターンとして腸内細菌叢や炎症関連の指標を動かしたことを示していますが、参加者36人の小規模な試験であり、感染が減るかどうかは調べられていません。
ヨーグルトや納豆、味噌、キムチを日常に置いておくことは、免疫のための対策というより、品目の偏りを減らす選択肢として捉えるのが実態に合っています。青魚やきのこ類はビタミンDを含む数少ない食品群でもあります。
栄養設計の優先順位そのものはパフォーマンスを底上げする栄養の基礎で扱っています。
秋から冬に不足しやすい
季節による差も考えておくと現実的です。日照時間が短くなる秋から冬にかけては皮膚でのビタミンDの合成が減り、屋内で過ごす時間が長い働き方ではその落ち込みが大きくなります。
日本での測定でも冬の採血で不足が多いことが報告されています17。この時期に魚を食べる機会を意識するのは、季節の食材を薦める話というより、不足しやすい時期に供給を確保するという意味です。
そして食事だけを切り離さないことが大切です。睡眠と免疫の結びつきは、Besedovskyらが総説で整理したとおり双方向で、睡眠不足は感染への抵抗や炎症の調整に不利に働きます20。
運動についても、NiemanとWentzが、習慣的な身体活動が体の防御機能を支える方向に働くことを論じています21。どちらも、やれば免疫が上がるという話ではなく、睡眠不足や運動不足が土台を崩す、という向きで理解するのが実態に近いところです。夜間の睡眠そのものの整え方は睡眠の質を上げる方法を参照してください。
確かさで並べると何が先に来るか
ここまでの内容を、証拠の確かさで並べ直すと、優先順位がはっきりします。食品やサプリメントの話は、この並びの中では上のほうには来ません。
| 手段 | 報告されている内容 | 確かさ |
|---|---|---|
| 予防接種 | 健康な成人でインフルエンザの発生が2.3%から0.9%に下がったと報告 | 中程度の確実性 |
| 手洗いなどの衛生 | 急性呼吸器感染にかかる人が14%相対的に少なかった | 中程度の確実性 |
| 睡眠を削らない | 5時間未満の人は7時間超の人より発症しやすい | 実験的な曝露研究あり |
| 栄養の不足を是正する | 不足の強い人でビタミンD補給の恩恵が大きい | 条件付きで確認 |
| 足りている人がサプリを足す | 一貫した上乗せは確認されていない | 乏しい |
予防接種と手洗いの位置づけ
予防接種については、2018年のコクランレビューが、16歳から65歳の健康な成人を対象とした試験を統合し、不活化ワクチンによってインフルエンザの発生が接種なしの2.3%から0.9%に下がると報告しています(リスク比0.41、95%信頼区間0.36〜0.47、71,221人、中程度の確実性)22。
これは食品の話ではなく医薬品の話で、接種するかどうかは持病や年齢を踏まえて医師と相談する事柄ですが、確かさの比較対象としては見ておく価値があります。
手洗いについては、2023年に更新されたコクランレビューが、9件の試験52,105人のデータから、手指衛生の介入で急性呼吸器感染にかかる人が14%相対的に少なかったと報告しています(リスク比0.86、95%信頼区間0.81〜0.90、中程度の確実性)23。
ただし対象となった試験の多くは学校や保育施設、家庭で行われたもので、そのままオフィスの成人に当てはまるとは限りません。
またインフルエンザに限定した解析では明確な差が出ておらず、万能ではないことも同時に示されています。
こう並べると、食事や栄養素が、やって損はないものの、確かさで言えば上位ではない層にあることが分かります。それでも土台として意味があるのは、不足が起きれば全体が引き下がるからです。
栄養は、上乗せの手段ではなく下振れを防ぐ手段として位置づけるのが実態に合っています。
「免疫力アップ」商品をどう見るか
店頭やネットには免疫力アップをうたう商品が並んでいますが、その多くは、ここまで見てきた「効果は限定的で条件付き」という研究の実態より強い印象を与えます。
健康な人がこうした商品で抵抗力を確実に底上げできるという裏づけは弱く、不足のない人にとっては費用に見合うものが見えにくいのが正直なところです。
見分け方としては、その商品が何を根拠にしているかを一段掘ってみることです。血液中の指標が動いたという研究なのか、実際に感染や症状が減ったという研究なのかで、意味はまったく違います。
動物実験や試験管内の結果を人での効果のように見せている場合もあります。誰を対象にした研究かも重要で、欠乏のある集団や高齢者、あるいは特定の疾患を持つ人での結果を、健康な働き盛りに当てはめられるとは限りません。
サプリメントを使うとしても、不足を補う目的に絞り、過剰を避け、表示の用法用量を守るのが基本です。
受診を考える目安
栄養や生活習慣の見直しは土台ですが、それで対処できる範囲には限りがあります。次のような場合は、栄養の問題にとどまらないことがあるため、自己判断で抱え込まず医療機関に相談してください。
- 発熱が続く、または高い熱が出ている
- 感染をくり返す、治りが明らかに遅い
- 強いだるさや体重減少が長引いている
- 免疫に関わる病気や基礎疾患があり、栄養やサプリメントの扱いに不安がある
これらは「免疫力を高める食事」で解決を図る段階を超えています。気になる症状があるときは、早めに専門家の判断を仰ぐのが安全です。
忙しい人の現実的な優先順位
意思決定の質が問われる立場ほど、体調を崩したときのコストは大きく、免疫力を高めるという言葉につい手が伸びます。
費用対効果で考えると、評判のサプリメントを次々に試すことより、睡眠を削らない、極端な食事制限をしない、飲酒を重ねすぎないといった、下振れを作らない選択のほうがはるかに確実です。
ここまで見てきたとおり、確かさの順で並べたときに上に来るのは、そうした地味な項目のほうでした。
サプリメントを検討するのは、その土台が整ったうえで、不足が疑われるものに絞るのが現実的です。健診で指摘された項目があるなら、そこは補う理由がはっきりしています。
逆に、感染をくり返す、だるさが抜けないといったサインが続くなら、それは商品を探す合図ではなく、生活を見直し、必要なら医療機関に相談する合図です。
参考文献
Footnotes
-
Calder PC. Nutrition, immunity and COVID-19. BMJ Nutrition, Prevention & Health, 3(1):74-92 (2020). DOI: 10.1136/bmjnph-2020-000085 ↩
-
Hatch-McChesney A, Smith TJ. Nutrition, Immune Function, and Infectious Disease in Military Personnel: A Narrative Review. Nutrients, 15(23):4999 (2023). DOI: 10.3390/nu15234999 ↩
-
Nikolich-Žugich J. The twilight of immunity: emerging concepts in aging of the immune system. Nature Immunology, 19(1):10-19 (2018). DOI: 10.1038/s41590-017-0006-x ↩
-
Prather AA, Janicki-Deverts D, Hall MH, Cohen S. Behaviorally Assessed Sleep and Susceptibility to the Common Cold. Sleep, 38(9):1353-1359 (2015). DOI: 10.5665/sleep.4968 ↩
-
Cohen S, Tyrrell DAJ, Smith AP. Psychological Stress and Susceptibility to the Common Cold. New England Journal of Medicine, 325(9):606-612 (1991). DOI: 10.1056/NEJM199108293250903 ↩
-
Barr T, Helms C, Grant K, Messaoudi I. Opposing effects of alcohol on the immune system. Progress in Neuro-Psychopharmacology and Biological Psychiatry, 65:242-251 (2016). DOI: 10.1016/j.pnpbp.2015.09.001 ↩
-
Qiu F, Liang CL, Liu H, et al. Impacts of cigarette smoking on immune responsiveness: Up and down or upside down? Oncotarget, 8(1):268-284 (2016). DOI: 10.18632/oncotarget.13613 ↩
-
Evans SS, Repasky EA, Fisher DT. Fever and the thermal regulation of immunity: the immune system feels the heat. Nature Reviews Immunology, 15(6):335-349 (2015). DOI: 10.1038/nri3843 ↩
-
Huang D, Taha MS, Nocera AL, et al. Cold exposure impairs extracellular vesicle swarm-mediated nasal antiviral immunity. Journal of Allergy and Clinical Immunology, 151(2):509-525.e8 (2023). DOI: 10.1016/j.jaci.2022.09.037 ↩
-
Campbell JP, Turner JE. Debunking the Myth of Exercise-Induced Immune Suppression: Redefining the Impact of Exercise on Immunological Health Across the Lifespan. Frontiers in Immunology, 9:648 (2018). DOI: 10.3389/fimmu.2018.00648 ↩
-
Bennett MP, Lengacher C. Humor and Laughter May Influence Health IV. Humor and Immune Function. Evidence-Based Complementary and Alternative Medicine, 6(2):159-164 (2009). DOI: 10.1093/ecam/nem149 ↩
-
Wastyk HC, Fragiadakis GK, Perelman D, et al. Gut-microbiota-targeted diets modulate human immune status. Cell, 184(16):4137-4153.e14 (2021). DOI: 10.1016/j.cell.2021.06.019 ↩
-
Zhao Y, Dong BR, Hao Q. Probiotics for preventing acute upper respiratory tract infections. Cochrane Database of Systematic Reviews, (8):CD006895 (2022). DOI: 10.1002/14651858.CD006895.pub4 ↩
-
Hemilä H, Chalker E. Vitamin C for preventing and treating the common cold. Cochrane Database of Systematic Reviews, (5):CD000980 (2013). DOI: 10.1002/14651858.CD000980.pub4 ↩
-
Martineau AR, Jolliffe DA, Hooper RL, et al. Vitamin D supplementation to prevent acute respiratory tract infections: systematic review and meta-analysis of individual participant data. BMJ, 356:i6583 (2017). DOI: 10.1136/bmj.i6583 ↩
-
Fang Q, Wu Y, Lu J, Zheng H. A meta-analysis of the association between vitamin D supplementation and the risk of acute respiratory tract infection in the healthy pediatric group. Frontiers in Nutrition, 10:1188958 (2023). DOI: 10.3389/fnut.2023.1188958 ↩
-
Yasuoka A, Tsugawa N, Ura C, et al. The Association between Atherosclerotic Disease Risk Factors and Serum 25-Hydroxyvitamin D Concentration in Japanese Subjects. Journal of Nutritional Science and Vitaminology, 69(3):176-183 (2023). DOI: 10.3177/jnsv.69.176 ↩ ↩2
-
Hemilä H. Zinc Lozenges May Shorten the Duration of Colds: A Systematic Review. The Open Respiratory Medicine Journal, 5:51-58 (2011). DOI: 10.2174/1874306401105010051 ↩
-
Nault D, Machingo TA, Shipper AG, et al. Zinc for prevention and treatment of the common cold. Cochrane Database of Systematic Reviews, (5):CD014914 (2024). DOI: 10.1002/14651858.CD014914.pub2 ↩
-
Besedovsky L, Lange T, Haack M. The Sleep-Immune Crosstalk in Health and Disease. Physiological Reviews, 99(3):1325-1380 (2019). DOI: 10.1152/physrev.00010.2018 ↩
-
Nieman DC, Wentz LM. The compelling link between physical activity and the body’s defense system. Journal of Sport and Health Science, 8(3):201-217 (2019). DOI: 10.1016/j.jshs.2018.09.009 ↩
-
Demicheli V, Jefferson T, Ferroni E, Rivetti A, Di Pietrantonj C. Vaccines for preventing influenza in healthy adults. Cochrane Database of Systematic Reviews, (2):CD001269 (2018). DOI: 10.1002/14651858.CD001269.pub6 ↩
-
Jefferson T, Dooley L, Ferroni E, et al. Physical interventions to interrupt or reduce the spread of respiratory viruses. Cochrane Database of Systematic Reviews, (1):CD006207 (2023). DOI: 10.1002/14651858.CD006207.pub6 ↩